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COLUMN

2021.12.21M&A全般

昨今話題の不動産M&A

  • M&A
  • 不動産M&A

本コラムでは、当社の経験豊富なシニアマネージャーが執筆しております。この情報が関与先様へのアドバイスの一助となれば幸いです。



『不動産M&A』とは、企業が所有する不動産の譲渡を目的とするものの、当該不動産の直接的な譲渡ではなく、不動産所有企業の株式を譲渡対象とするM&Aのことです。
即ち、経済効果は不動産売買ですが、売買の対象は株式となります。
本稿では、『不動産M&A』が昨今増加傾向にある理由、売手、買手のメリット・デメリットに加え、日税グループの強みについても述べていきます。

1. 法人所有の不動産売却ニーズ増加の背景
日本全国の主要駅周辺には古いビルが数多く残っていますが、これらの多くは法人所有です。
中にはオーナー個人と法人で所有、あるいは複数の個人・法人で共同所有となっているビルもあるでしょう。
古いビルほど所有関係が複雑になっていたり、相続対策、事業承継対策が適切にされていなかったり、更に昨今の不動産市場の活況により、多額の含み益を抱えているケース等、さわりを聞いただけで対処に苦労しそうな話が多々存在します。
こうした問題を抱える不動産所有法人への一つのソリューションとして不動産M&Aが活用されるようになってきました。

通常の含み益がある不動産売却の場合、売主は約35%の法人税等に加え、税引後利益を株主に配当すると株主に所得税等で最高約50%が課せられますが、不動産M&Aの場合は不動産所有企業の株式売却となるため、株式の譲渡益に約20%の所得税等が課されるのみです。
一方、買手は不動産購入に伴い発生する不動産取得税や登録免許税が不動産M&Aでは不要となります。不動産所有企業の株主が変わるのみで、不動産所有者は当該企業のままだからです。

昨今は後継者難により廃業を余儀なくされる中小企業も多く、こうした企業は事業だけでなく所有不動産も処分しなければなりません。
中でも大都市圏に不動産を所有する企業の場合、多額の含み益を抱えているケースが多く、個別売却より株式譲渡の方が有利なため不動産M&Aが選択されるのです。


2. 売手のメリット・デメリット
(1)メリット

①節税効果
上記の節税効果を具体的に例示します。
例えば、不動産売却益が10億円の場合、約35%法人税350百万円(残額650百万円)、さらにオーナー個人(株主)へ剰余金を分配すると約50%の所得税等で325百万円しか手元に残らず売却益の3分の1を下回ってしまいます。
一方で、株式譲渡益が不動産売却益と同額と仮定した場合、約20%の譲渡益課税のみとなり、約8億円の手残りとなります。


②廃業コストが不要
不動産M&Aでは不動産所有企業の株式を譲渡、即ち会社をそのまま譲渡するため、不動産を売却した場合に、残った会社の処分にかかる司法書士、税理士などの専門家費用、設備・備品・在庫等の処分費等が不要となります。


③複数の不動産を一つの取引で売却可能
不動産を複数所有している企業の場合、通常の不動産売却では一つずつ買手を探し、交渉し、と非常に手間と時間がかかる上に、全ての不動産を売却できないリスクもあります。
不動産M&Aでは会社の譲渡のため一括売却が可能となり、本来であれば買手が付かなかった不動産も手放すことができます。
従って、所有物件が多いほど個別売却より短期間の現金化が可能となります。


(2)デメリット

①時間と手間がかかる
不動産M&Aの一番のデメリットは、通常の不動産売却よりも時間と手間がかかる点です。
対象不動産が比較的売却しやすい物件の不動産売却は、不動産会社に買手を探してもらい、物件情報を開示して条件交渉、売買契約を経て決済、という流れになるので最短で2か月、長くても半年程度で完了します。
一方で、不動産M&Aの場合、M&A専門会社とFA契約の締結、買手探索、買手候補へ企業概要書を提示、初期的提案受領、基本合意契約書締結、デュー・デリジェンス、最終提案受領、条件交渉、式譲渡契約締結、クロージングという流れになり、一般的には最低でも6か月、平均すると10か月程度かかると言われています。


②買手探しに課題
不動産取引に関する知見が低く、また不動産買手候補の蓄積も少ないM&A専門会社が買手探しをするため、最適(最高)の買手情報を提案してもらえるかに疑問が残ります。


③買手の廃業コストを負担させられることも
買手の目的が不動産に限定され、譲受後すぐに廃業手続に入る場合や、転売目的の場合、廃業にかかるコスト負担を求められることがあります。
従って、小口の不動産売却、あるいは不動産のみを所有している法人には向かないといわれています。


④手数料が高くなる
通常の不動産取引であれば3%+6万円を上限として宅地建物取引業法で定められていますが、M&A専門会社の成功報酬は一般的にレーマンスケールと呼ばれる手数料体系を適用します。
仮に10億円の不動産の売却の場合、3,006万円の手数料ですが、10億円の企業の売却の場合4,500万円の手数料(5億円×5%+5億円×4%)となります。
また、売却対象企業の価値が小さい場合、最低手数料を設けているM&A専門会社もあるため留意が必要です。
ただし、手数料が多額となっても節税効果の方が大きくなればデメリットではなくなります。



3. 買手のメリット・デメリット
(1)メリット

①節税効果
売手同様、買手も節税効果があります。
通常の不動産購入では登録免許税や不動産取得税が発生しますが、不動産M&Aは株主異動のみで不動産所有者は譲渡対象企業のままであるためこれらの費用は不要です。


②不動産取得コストの低減
これはあらゆるケースで、とはいきませんが、2.(1)①で述べたとおり、不動産M&Aの活用により売手は手取額の大きな増幅を見込めます。
ここに価格交渉の余地が生まれる可能性があり、特に売手が複数の不動産を所有している場合、一括売却できるのであれば、と更に交渉余地を広げてくる可能性もあります。
また、上記2.(2)③の裏返しで、不動産取得のみが目的の場合や転売が目的の場合、廃業コストを売手に負担させるケースもあります。


③対象企業の不動産以外の資産の引継ぎ
事業譲渡と株式譲渡の相違点と似ていますが、不動産M&Aの場合、対象企業の不動産以外の人員、知的財産、システム、免許、許認可、取引先との契約等をそのまま引き継ぐことが可能です。
※チェンジオブコントロール条項には留意が必要


(2)デメリット

①不要な資産、簿外債務等を引継ぐリスク
3.(1)③の裏返しになりますが、不動産M&Aの場合、買手が不要な対象企業の資産、簿外債務、潜在的訴訟リスク等を引き継いでしまうことがありますので、弁護士、会計士等の専門家を雇用し、入念なデュー・デリジェンスが不可欠となります。


②不動産M&Aに精通したアドバイザーが少ない
不動産M&AにはM&Aの知識と経験だけではなく、不動産取引にも精通したフィナンシャル・アドバイザーが必要です。
しかしながら、両方の知見を有するM&A専門会社はまだまだ少ないのが現状です。


不動産M&Aは通常の不動産取引より売手、買手共に小さくないメリットがありますが、上記のとおりデメリットがあることも事実です。

日税グループには不動産取引のプロ集団である日税不動産情報センターとM&Aプロフェッショナルを擁する当社(日税経営情報センター)が共存します。両社が組むことで最適のソリューションを提供できると自負しておりますので、まずはお気軽にご相談いただければ幸いです。




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