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COLUMN

2021.12.02税務コンサルのポイント

【事業承継スキーム】種類株式と属人株の使用場面

  • 富裕層コンサルのイロハ
  • 事業承継スキーム

Q. 種類株式と属人株の使用場面

種類株式と属人株についてご教示ください。


Answer

下記のようなまとめになります。

【解説】
会社法上は、剰余金配当請求権、残余財産分配請求権、議決権の3点セットがそろっている株式が、普通株式といわれるものとされています。

<普通株式を構成するもの>
・剰余金配当請求権
・残余財産分配請求権
・議決権


上記3点のどれかに制限をかけるのが、会社法第108条、第109条に出てくる種類株式です。9種類の種類株式について、9つの事項を複数組み合わせて、多種多様な種類株式を発行することが可能になります。
「非常に便利な道具で使い勝手がいい」と、会社法施行時は万能の道具であるかのように言われていましたが、実際にこれを活用している会社は非常に少数です。理由は2点です。
1つ目は実務上の問題で、導入が煩雑であるということです。
2つ目は出口の税務上のリスクがあるということです。

1点目の入り口の問題について、実務上は2階建ての構造をつくる必要があります。1階部分は、定款で「種類株式を発行する」という定款の変更決議をしなければならないというものです。定款の変更決議なので株主総会の特別決議が必要です。
2階部分は、大きく2つのルートに分かれます。一方のルートが、種類株式を、今までの株式とは別のものとして、新たに発行するというルートです。新株発行となるので、株主総会の特別決議を経て発行することになります。新株発行をして資本金等の額が増加して住民税均等割が大きくなるのは避けたいため、そのルートは通常はとられないことが多いと思われます。
もう一方のルートとは、既発行の株式のうち、一部を種類株式に変更するルートです。この場合、株主全員の同意が必要になります。
この煩雑さが、種類株式が普及しない1つの理由となっているのではないかと言われています。
種類株式を事業承継対策として安易に導入でき、有効に活用できる場面を、具体的な事例で見てみましょう。

現オーナーが70歳で、後継者が30歳ぐらいの会社で、現オーナーが1株保有、後継者が99株保有、全体の株式数は100株という会社があるとします。70歳のオーナーの1株は黄金株としたいというケースです。会社は無借金の状態です。ポイントになるのは、70歳、30歳という年の差と無借金というところです。

まず、70歳と30歳という年の差がある場合は、事実上、後継者はオーナーの言いなりで、オーナーがいないと後継者は何もできないという場合がほとんどです。そのため、株主全員の同意は取りやすいということになります。
種類株式は登記事項なので、全部履歴事項証明書に載ります。例えば、黄金株であれば、「A種種類株式」という形で全部履歴事項証明書に載りますが、「A種種類株式」という記載がある時点で金融機関は引いていきます。この会社は事業承継がうまくいっていない会社だと金融機関からは見られるので、無借金の会社しか適用ができないということが多いように思われます。
以上のような諸事情が積み重なって、種類株式を活用できる会社は非常に少ないということになります。
2階は2つのルートに分岐すると説明しましたが、分岐しない場合もあります。種類株式の中で、「全部取得条項付株式」と「譲渡制限株式」の導入に関しては、株主総会の特別決議だけで導入可能です。
ただし、特に前者について、実際にこれを利用する場面は限られます。全部取得条項付株式は大規模会社がスクイーズアウトをするときぐらいにしか使われないため、実際に中小企業で活用するような場面は少ないでしょう。

出口についてですが、税務面の取扱い、特に評価がはっきりしていない、ということが導入を妨げている主要因になっていると思われます。
現在、種類株式の評価方法に関しては、国税庁から公表されている資料は3つだけです。

・配当優先の議決権株式
・社債類似株式
・拒否権付株式(黄金株)


会社法第108条、第109条に載っている他の種類株式についてはどのように評価するかがよく分からないという状況となっています。
会計では株式評価のガイドラインで種類株式の取扱いが掲載されているようですが、あくまでガイドラインなので税務上の取扱いとしてあてにできるものではないように考えます。
黄金株・譲渡制限株式共通の留意点について補足しておきます。先ほどの条件を満たした会社に関しては、黄金株を付与しても問題ありませんが、以下の4点に留意する必要があります。

・ 生前贈与しない場合には、遺言で後継者に確実にいきわたるようにしておくこと

・取得条項を付与しておくこと

・他の相続人の遺留分に留意すること

・遺留分の順番を株式については後順位にしておくこと


黄金株を後継者以外の人が所有すると、非上場株式等の納税猶予を受けることができないという点も挙げておきます。
A種種類株式とセットで取得条項付も同時に付します。
黄金株を設定した現オーナーが1株持っていて、突然亡くなってしまった場合、その1株は宙に浮いてしまうことになります。この場合に、取得条項が付与されていれば、会社で取得条項をトリガーにしてその1株を買い取ることができます。
黄金株1株、後継者の保有株99株と設定しましたが、このように極端に生前に後継者に株式を移動することとなると、他の相続人の遺留分を留意しておかなければなりません。
さらに、遺言書を作って後継者に確実にいきわたるようにしておきます。

属人株について下記します。
会社法では、公開会社でない株式会社については、配当請求権等について株主ごとに異なる取扱いが可能で、定款で定めるだけでその導入が可能です。
異なる取扱いができるのは、

・剰余金配当請求権
・残余財産分配請求権
・株主総会における議決権

です。

種類株式と属人株とのもっとも大きな違いは、種類株式は登記が必要ですが、属人株は不要だという点です。
みなし贈与の発動可能性があるかということを考えてみたいと思います。
特定の株式について所有割合と異なる配当基準を決定し、その基準に従って配当した場合の課税関係を考えましょう。

例えばAとBの出資額が同じ1,000だった場合に、配当額については1対4 、例えば500対2,000という配当を出した場合を考えてみます。株主Aと株主B、この2人が赤の他人の状態であったとします。A は取引先500、Bは取引先2,000をもっていたとします。

この場合、配当額500対2,000にしてもみなし贈与の発動可能性はないものと思われます。
しかし、同族法人で株主Aが親、株主Bが子で、2人とも役員、同じ仕事をやっている状況であれば、それは親から子へ、属人株を利用して配当を500対2,000にすることで贈与をしていると認定される恐れがあります。
私見では、同族法人等において、特定の株主に利益を与えるために属人株を採用したことが明らかな場合に関しては、みなし贈与が発動される可能性があるのではないかと考えています。
剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利については、現実的には実行している会社は少ないと思われます。みなし贈与の発動リスクが高いからです。つまり、議決権以外についてはやっている方はほとんど見られないというのが実情と思われます。
議決権に関しては、いわゆる一般社団法人スキームに関連する論点を補足しておきます。
一般社団法人の社員は1持分1議決権というのが原則ですが、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第48条但書に、社員の議決権を変化させて2倍や3倍にすることができるという規定があります。

【一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第48条】
(議決権の数)
第48条
 社員は、各一個の議決権を有する。ただし、定款で別段の定めをすることを妨げない。

2 前項ただし書の規定にかかわらず、社員総会において決議をする事項の全部につき社員が議決権を行使することができない旨の定款の定めは、その効力を有しない。


議決権を変えるのであれば、それなりの大義名分は必要になってくると思われます。なぜ議決権を変更したかという点を説明できるようにしておいた方がいいのではないかと考えます。
平成30年度税制改正において一般社団法人(財団含む)スキームに関しては一定の規制が設けられました。これから設立を企図されている方は今後の改正動向について慎重に検討してください。
ちなみに特定一般社団法人の回避方法もいくつか出回っているものがありますが、どれも短期的な解決方法ばかりで長期的視野に立った場合の対策としてはお勧めできません。
属人株の導入には、特殊決議(総株主数の頭数の過半数+総議決権数の4分の3以上の賛成)が必要です。登記事項ではないものの、導入は難しいと思われます。
所有株式数によらず人数割で配当や残余財産の分配を変えるということもできることとされています。
1株に総議決権数の3分の2以上の議決権数を与えることや、一定数以上の株式を有する株主については議決権を制限するということも可能です。
なお、剰余金の配当、残余財産分配請求権について全部を与えない定款の定めは無効だとされています。普通株式の2要素、「剰余金の配当」「残余財産分配請求権」である自益権は、まったく無効にするというのは許されません。
会社法上認められている属人株について、持分割合に応じない配当の定めをすることのみをもって株主間贈与を認定することは困難でないかと思われます。
例えば、出資先医療法人の定款変更に伴い、残余財産分配請求権が失われたとして納税者が損金の額に算入した特別損失の金額は、寄附金に該当するとされた事例がありますが、これをそのまま適用することは妥当ではありません。
なぜなら、属人株の定めというのはいつでも変更が可能なためです。実際に持分割合に応じない残余財産の分配をした場合には、その分配をしたときに、株主間贈与が認定されると考えられます。私見としては、属人株については、納税者側が立証責任を最終的には負うことになると思われます。


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伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。