Q. 会計事務所自身の事業承継戦略
・個人税理士事務所
・売上額:1億円
・従業員数:5名
・税理士の事業所得:約3,000万円
・ 税理士事務所を売却する場合、概ね1年分の売上額が売却額の大きな基準になります。上記の例では、1億円で売却した場合、雑所得で総合課税となります。
一方で、同じ税理士事務所が会計法人を保有していた場合、
(例)会計法人+個人事務所
〇会計法人
・売上額:1億円
・従業員数:5名
・税理士(代表)の役員報酬:1,500万円
・税理士事務所への外注費:1,000万円
・法人所得:0円
〇個人事務所
・売上額:1,000万円
・従業員数:0人
・税理士の事業所得:700万円
のようになります。
この場合で、会計法人+個人事務所を併せて1億円で売却する場合の内訳は
〇会計法人:9,000万円
〇個人事務所:1,000万円
などに分解することになるのでしょうか。
そうだとすれば、会計法人は株式譲渡で20%課税で済み、雑所得は低額で済むことになり、税理士が将来のイグジットを考えた場合、会計法人を保有し、そちらで顧客と契約していた方が良いという理解でしょうか。
税理士事務所⇒会計法人というお金(と契約)の流れ自体に問題があると考えています。
税理士(事務所)が自身の会計法人に支払うには、必要経費の相当性と必要性が求められることになり、全額否認される可能性すらあると考えています。
ですから、出口戦略も踏まえたうえで考えるに、会計法人側で顧問先と契約 ⇒ 税理士の独占業務部分のみ外注というのが否認されにくい方法だと考えます。
法人には必要経費のような要件はありませんので、否認されるなら行為計算否認のみが根拠になります。
また、会計法人で全契約(対顧問先・対従業員)をしている場合、会計法人だけを売却することで済みます(M&A後は買収側の税理士事務所が外注を受ければいい)ので、手残り額の増加に加えて、契約の変更等を行う必要がないというメリットもあります。
・会計法人と税理士事務所は「直列型」ではなく「並列型」が望ましい。
・よって
⇒契約書は三者間契約
⇒入金はぞれぞれ
⇒税理士事務所契約書の記載事項……税理士法第2条第1項業務
会計法人契約書の記載事項……上記以外の付随業務
・従業員は
⇒会計法人……無資格者
⇒税理士事務所……有資格者
これは税理士法のみならず、社保対策も兼ねています。
・毎期の所得は
⇒会計法人……代表者親族で役員報酬(+その後の役員退職慰労金)、過大性指摘を避ける場合は配当すればよい(配当は税務上、不利だが対調査対策のため)こうすることで限りなく0 、つまり内部留保を0にしておく。
※これは税理士法人でも同じ論点です。
⇒税理士事務所……そのまま
・ 会計法人の株主は代表者親族、これにより税理士事務所の後継者いかんによって
⇒親族内……株式贈与、譲渡
⇒親族外……そのまま所有していてもよいし(所有と経営の分離)、M&Aしても可能
上記の最大のデメリットは対外的契約等の書換えの煩雑さ等です。
1 原告は、ビル内の事務所を賃借し税理士業を営む個人事業者である。原告は、同族会社B社に事務所の一部を無償で提供し、業務の一部を委託していた。また、社会保険労務士である乙と業務提携し、事務所の一部を無償提供して乙の開業支援等を目的として支援料を支払っていた。
本件は、原告が、B社及び乙に係る賃料等相当額や支援料を事業所得の必要経費に算入して申告したところ更正処分等を受けた事案である。
2 (省略)
3 ある費用が事業所得の金額の計算上必要経費として控除されるためには、直接か、間接かといった関連性の程度はさておき、当該費用が所得を生ずべき事業ないし業務と関連し、かつその遂行上必要なものであることを要するものと解される。
4 上記3の事業ないし業務との関連性の有無、事業ないし業務遂行上の必要性の有無については、当該事業や業務の性質、内容等をも踏まえ、事業者による当該費用の支出、負担がその事業ないし業務の維持、拡大等による経済的利益の獲得を目的として行われたものであるか、当該費用の支出、負担が客観的にも経済的利益の獲得につながるようなものであったか(当該費用の支出、負担による業務上の成果、経済的利益の獲得への寄与の程度。この点は、上記の目的の有無を客観的に判断する上でも必要となる)等の諸事情を総合的に考慮して判断することが相当である。
5 認定事実によれば、原告にとって、B社をして事務所の一部を無償使用させて業務を行わせる必要があったものとは容易に認め難い。したがって、B社による事務所の一部の無償使用は、原告が、自身の業務とは無関係に、B社との関係を背景に個人的に使用させていたものと認められるのであり、被告が主張するような事業ないし業務との直接関連性の要否にかかわらず、B社賃料等相当額は、原告の事業所得の計算上必要経費に算入すべき金額に当たらないものというべきである。
6 原告が社会保険労務士乙と業務提携をした目的は、介護保険事業に将来性を見いだし、介護保険事業者を新たな顧客として獲得する上で、乙の営業力を利用するとともに、乙との業務提携により実現されるワンストップサービスという特色をもって、より効果的に集客を可能とすることにあったのであり、その目的が、自らの税理士業の顧客獲得、それによる経済的利益の拡大を図ることにあったことは明らかであって、その目的自体、原告が営む税理士業という事業や業務に直接関連するものということができる。
7 原告は、業務提携に当たり、乙と提携条件について協議し、原告においても業務提携により集客力を高めることができ、乙から顧客を紹介してもらえるといった利益を受けることを考慮して、乙に事務所の一部を無償で使用(水道光熱費の使用を含む)させることや原告が当面6か月間支援料を乙に支払うことを合意し、本件覚書に調印したものであることからすると、乙賃料等相当額の負担や支援料の支出も業務提携の内容、条件を構成し、その履行として行われたものということができるから、それらの負担、支出も、上記6と同様の目的をもって行われたものと認めることができる。
8 以上のとおり、乙賃料等相当額及び支援料の額は、原告の事業所得の計算上必要経費に算入すべき金額に当たるものと認められる。
9 (省略)
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税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。