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COLUMN

2021.10.07税務コンサルのポイント

【事業承継スキーム】所有と経営が分離している場合の持株会社スキームの留意点

  • 富裕層コンサルのイロハ
  • 事業承継スキーム

Q. 所有と経営が分離している場合の持株会社スキームの留意点

【前提】

・被相続人甲は、法人Aの創業者であり会長職についていました。

・甲亡き後、株式相続者は相続人 長女乙です。

・ 相続人乙は法人Aの運営には全く関与していません。法人Aの現在の代表取締役及び役員はすべて第三者で構成されています。

・H28.10.1に相続が発生しています。

・現在の法人Aの株主構成:法人B 98%(持株会社)、乙 2%

・現在の法人B の株主構成:乙 100%

・ 相続人乙はこれまで法人には全く関与していません。身内に後継者もいません。

・ 被相続人が生前中は配当を毎期もらえていたが、相続発生により役員退職金を支払ったことで法人が繰越欠損金を抱えている間は配当も出せないといわれています。

・ 配当が出せないなら株式の一部買取りだけでも考えてもらえないかと話を持って行っても、購入するための資金がないためすぐには買えないから時間がほしいといわれています。

・ 現状の役員たちに購入意思がないならば、M&Aも考えないといけないのではと考えています。


【質問】

乙2%の株式現金化又は法人Aからの配当作出等、所有と経営の分離スキームを将来的に円滑に進めたい場合、どのような方策があるでしょうか。



Answer

持株会社スキームが既に組成されており、法人Aは法人Bがほぼ100%所有、法人Bは所有者一族が持っているという、中小企業には珍しい「所有と経営が分離」されている状態での資本戦略に関するご相談です。

【解説】
1. 乙所有2%株式の現金化について
 株式の現金化手法は本ケースでは、

・乙所有2%株式を法人Aの役員に相対取引で売買する。

支配株主に対する売却のため、税務上適正株価は相続税評価原則となります。法人Aの役員にキャッシュがなければ、外部調達か、法人Aから貸し付けるほか、手立てはありません。


・乙所有2%株式を法人Aで金庫株する。

税務上の適正評価額は所得税基本通達59-6 になります。この場合の買取資金の融通は上記相対取引の場合と同じです。


2. 法人A⇒法人Bへの配当

受取配当等の益金不算入規定により、原則として法人Aは配当を(ほぼ全額)非課税で受け取ることが可能です。
所有と経営が分離する場合は、この受取配当の(ほぼ)全額非課税が「できるかできないか」が肝となりますので、これができるか最初にチェックします。
本ケースの場合、法人Aは税務上の欠損が生じていることを理由に配当したくないと言っています。
当然ですが、税務上欠損が生じていても会社決算報告書上、分配可能額があれば配当可能です。


3. 上記1. 2. ともに法人A側で拒否、ではどうする?
 非現実的な方法も含めて下記の方法が列挙されます。

 ・合併

せっかく所有と経営が分離しているので現実的ではない。


・従業員持株会、役員持株会を設立、そこで配当させるインセンティブを役員、従業員にも与える。

基本的な考え方として、中小企業・零細企業では持株会は機能しません。将来的な幽霊持株会になる可能性は極めて高く、今から導入するのは慎重を期します。


・オーナーの相続人が法人Aの非常勤役員・監査役に就任し、役員報酬+将来の役員退職金を受け取る。

  下記のような流れになると思います。

(STEP1) オーナーの相続人が法人Aの非常勤役員・監査役に就任し、役員報酬、将来の役員退職金の設計を行う。
ここで想定在任期間における報酬受取額の算定シミュレーションが必要。
また、当然のことながら過大役員報酬について留意が必要。

(STEP2) 通常、上記は法人Aが嫌がる。そこで、法人A 側で「配当を拠出するまでの期間」として条件を定めた契約書を交わす。
当該契約書には、これらが履行されない場合、直ちに1. の株式現金化金額を法人Aから乙へ支払う条項もつけておく。


なお、M&Aにおける中小・零細企業版アーンアウトも考慮できます。下記がM&Aにおけるアーンアウトの一例です。
代金分割払いは、株式譲渡M&A でも事業譲渡M&A でも非常に有効だと思います。例えば株式譲渡スキームなら、

・株式譲渡予定時期

・1 株当たりの譲渡価額、あるいは、譲渡価額を決定する計算方法

※この際、役員報酬を業績連動型(税務上の利益連動給与ではありません。会社が任意に決定すればよいと思います)として、株式譲渡対価の一部にその当該報酬を充当するなどの交渉も行ったりします。こうすることで、1株当たりの譲渡価額の計算に過去3期分それぞれの経常利益増加割合等を反映させることが可能となり、譲渡価額を大きくすることも可能です。ただし、上記各種エビデンスの整理は必須となります。


だけを決定しておけば、後は段階取得(段階譲渡、すなわち、代金分割払い)が可能となります。
設計次第では上記スキームは事業譲渡M&Aでも可能です。
表明保証違反の場合、代金分割払いをストップさせればよいだけの話になります。



※コラムに関するご質問は受付しておりません。予めご了承ください。



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伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。