金融資産家系の節税対策として真っ先に提案されるのは生前に現預金を贈与しておくことです。これについては各種特例があるので国税庁ホームページのタックスアンサーなどを良く確認しておくことをお勧めします。それ以外によく使われる方法を列挙します。
1)かい離率が大きな美術骨董品・金地金
仏具の購入は一定の節税効果があります。「墓地や、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝をしている物」には、相続税が課されないのです。例えば、純金の仏具は、高い市場価値があるにもかかわらず相続税評価額は0になります。金相場に基づく市場価格と相続税評価額のかい離は極めて大きくなるはずです。
相続税の税務調査では、被相続人の資金の流れを3年から5年遡及するのが通常です。大口の預金を持っていればさらに遡及されます。この際、銀行口座から高額な引き出しがあれば、何に使ったのかという資金使途を問われることになります。このとき仏像等が複数あるのは不自然だとして租税回避の意図があったのではないかという推測も働きそうです。しかし、信仰の熱い人が仏具を購入しようとすることまで税務職員に制限することはできないはずです。つまり反証の余地があるということです。
仏具にかかわらず、ここでのポイントは、市場価格と相続税評価額とのかい離を利用していることです。市場価格はキャッシュフローを生み出す価値であるのに対して、相続税評価額は単純に税金計算するための評価額に過ぎません。純金の仏具のように、価値は高いが、相続税評価額は低い資産という財産を取得することが相続税対策には最も効果的なのです。
2)受益権分離型信託を活用した対策
上記のような定型的な方法の他に受益権分離型信託を設定する方法もあります。しかし、これについては税務上の取り扱いが不明確な点が多いことから積極的に提案することは避けるべきです。したがってここでの説明は割愛します。
3)不動産投資による相続税対策
①土地・建物の購入 後述の地主様の相続対策でも通じる方法です。生前に土地を1億円取得すれば、土地の相続税評価額はその8割の8,000万円となります。現金1億円が課税資産8,000万円になったわけです。これは相続財産の評価においては、金融資産はその金額のまま評価されるのに対して、土地(宅地)の場合には、路線価方式・倍率方式によって評価されるからです。路線価は実勢価格をもとに算出された公示価格の80%を目安として設定されます。その差額部分が相続財産の評価額の減少となり、税負担の減少になるということです。
また、この不動産を賃貸にすればさらに評価を下げることが可能です。路線価を実勢価格の80%、借地権割合を60%とすれば、購入した土地を賃貸アパートの敷地とすれば、その土地の相続税評価額は6,560万円(=1億円×80%×(1-60%×30%)となり、相続財産はさらに1,440万円減少することになります。更地に賃貸アパートを建築すると、その敷地の評価が自用地評価から貸家建付地評価へ変わるからです。
更地:自用地としての価額
貸家建付地:自用地としての価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
購入した土地を自宅の敷地とすれば小規模宅地等の評価減の特例も使えます。330㎡であれば相続税評価額が1,600万円(=1億円×80%×(1-80%))となります。
ここで小規模宅地等の特例の概要を説明します。
個人が、相続又は遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等又は被相続人等の居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分(以下「小規模宅地等」といいます。)については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額します。この特例を小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例といいます。
なお、相続開始前3年以内に贈与により取得した宅地等や相続時精算課税に係る贈与により取得した宅地等については、この特例の適用を受けることはできません。
②リフォーム 自宅や賃貸不動産のリフォームを生前に行うことも典型的な方法です。特に賃貸不動産のリフォームは将来の家賃収入の増加を通じて資産価値を高めてくれます。資産価値を落とすことなく、相続税評価額を引き下げることが可能になるのです。ただし、大規模改造、増築は固定資産税評価額の増加になるケースもあるので注意しましょう。