(5)税務調査の素朴な疑問~資料せんに回答する必要はあるの?~
「税務署からの資料せんには回答しないとダメなの?」「回答・返送しないとどうなるの?」という疑問があります。税務署からの接触(郵送物・電話・対面など全てを含む)行為は、法的に大きく2つに分けることができます。「行政指導」と「質問検査権の行使」(税務調査)です。税務署からの「お尋ね」(資料せん)は「行政指導」に該当することから、その回答・返送については「任意」となっています。一方、税務調査の一環なのであれば、「質問検査権の行使」となりますので、その旨の記載があれば回答・返送「義務」があります。行政指導に従わなくても納税者に不利益がないことが法的に担保されています。以上のことから、資料せんに回答・返送しなかったことで税務署から以後、不利益な取り扱いを受けることは法的にはあり得ません。
では、現実的にはどう取り扱われるのでしょうか。税務署ごとに資料せんを発送する基準は違うのですが、どの税務署も資料せんの取扱いは一緒で、資料せんの回答・返送がない納税者、およびその顧問税理士をチェックしているわけではありません。なお、回答・返送がない場合、税務署は2回目の発送(督促)を行いますが、これは機械的に行っている行為であって、それをもって税務調査先の選定を行っているわけでもありません。むしろ、資料せんを真面目に回答したがゆえに、税務調査先に選定されるリスクは高まると言えます。なぜなら、回答した資料せんと、取引先等との数字が合わない場合、それを理由に調査先に選定される可能性が上がるからです。税務署が税務調査先を選定する大きなポイントとして、「数字が合わない」などが挙げられます。資料せんがあるために、このように認識されてしまい、税務調査に選定されてしまったら本も子もありません。結論として回答不要ということになります。
(6)税務調査の素朴な疑問~税務調査は録音できるの?した方がよいの?~
かつては「税務調査官は音声録音を嫌う」と言われていました。しかし、最近は録音を断る調査官は多くないように聞いています。平成23年に国税通則法が大改正され、調査手続きなどの明確化が図られるようになってから、調査官も証拠を残さなければならないので「録音ぐらいのことを気にしていない」そうです。
通則法の大改正の前と後では、税務調査が大きく変わっています。結論を先に述べますと、税務調査は録音すべきです。調査官は、たとえウソを言ったとしても、録音さえなければ「言っていません」「そういう意味で言ったのではありません」など、いくらでも逃げることが可能です。調査官がウソをついたときに、顧問先を守れますか?ただ、これだけです。今ではスマホで簡単に高音質録音が可能です。「録音しておけばよかった」では遅いのです。ぜひ、税務調査は常に録音してください。
(7)税務調査の素朴な疑問~最後の一筆、終了手続きって本当に必要なの?~
国税通則法の大改正によって、調査手続きが詳細になったのはいいのですが、国税内部も文書に追われて調査が長期化する傾向にあることに加え、納税者から「一筆」を取りたがる傾向がますます強くなっています。上述の証拠主義が大事になったからです。従来は、税務署内を口頭で通していたような事案も、調査官が作成してきた書面に押印を求めてくることが本当に多くなりました。最近の調査官の常套句が、「書面に押印してくれたら調査は終わります」です。調査官もこう言っておけば、書面に署名押印してくれる可能性が高いのでしょう。まず知っておくべきは、書面への署名押印は調査官自身が望んでいることではなく、統括官もしくは審理担当(いずれも調査官の上司のことです)が求めていることだという事実です。調査官も書面がないと税務署内を通せないから仕方がない、というのが本音です。
しかし、本当に「書面に押印しないと調査が終わらない」のでしょうか?調査官も最初からそんな書面がなくて課税できるなら、書面など求めてこないわけです。つまり、書面がなくても事実関係がはっきりしているなら、税務署内の決裁を通る、もしくは納税者自身が認めているなら、修正申告を提出することで調査は終わるわけで、どう解釈しても「書面に押印しないと調査が終わらない」は納税者に課税したいだけの、そして調査官の内部事情によって言ってくるだけなのです。無用な書面に署名押印することだけは絶対に避けましょう。