MENU MENU

COLUMN

2018.01.10税務コンサルのポイント

地主系資産家の相続対策「不動産の売却」

  • 富裕層コンサル プロフェッショナルへの道
  • 相続
  • 事業承継
  • 地主

 不動産が資産の大半を占める地主様の場合、相続税額が金融資産では対応できないほど巨額になり、お金での一括納付が不可能というケースがあります。こんなときに使えるのが、延納・物納ですが、平成18年度の改正で、ハードルがぐんと上がってしまいました。
 お金ではダメ、延納・物納も使えない・・・そんなときは不動産の売却が一つの選択肢として上がってきます。

相続財産の売却は所得税軽減


 相続財産の不動産を売却して納税資金に充てる場合、所得税の面で有利になる特例が用意されています。不動産を売却した時に発生する所得は、「譲渡所得」ですが、まずはこの譲渡所得の仕組みを理解しましょう。
 譲渡所得の基本的な計算式は以下のようになります。

収入金額 -( 取得費 + 譲渡費用 )- 特別控除 = 譲渡損益


 相続や遺贈により取得した財産を申告期限の翌日から3年以内に売却した場合、相続税の一部を上記算式の「取得費」に加算することができます。これが言わずと知れた取得費加算の特例です。
 例えば、相続財産の70%が土地で、相続税額が1億円であった場合、1億円×70%=7千万円を取得費に上乗せできるということになります。その結果、譲渡所得の金額は小さくなり、所得税が減少するということです。
 取得費加算の特例については改正がありました。
 平成27年1月1日以後に開始する相続又は遺贈により取得した土地等を売却する場合については、譲渡所得の金額を計算するときに取得費に加算できる金額がその人が取得したすべての土地等に対応する相続税相当額からその売却した土地に対応する相続税相当額とされます。


特例を有効活用できる土地の選択


 この取得費加算の特例を有効に活用するためには、以下の点を考慮して、売却する土地の優先順位を決めるのも一つの方法です。

<1> 含み益がある土地に適用する
 所得税は「譲渡『益』」に対して課税されるので、いつ売却しても譲渡益の発生しない土地は、取得費加算の適用期限を気にする必要はありません。

<2> 所有期間が短い土地に適用する
 不動産の譲渡は分離課税方式が採用されており、所有期間が5年以下の場合、税率は39%(復興特別所得税を除く)と、高く設定されています。
 同一年に5年超の長期保有のものとの選択になった場合には、短期所有のものから取得費加算の特例を適用していくことをお薦めします。

<3> 特別控除や他の規定による軽減特例の適用できる土地には使わない
 居住用財産を売却したときの3,000万円の特別控除や、収用等により土地建物を売ったときの5,000万円の特別控除のように課税所得をより少なくできる特例を活用できるものは、優先順位を下げましょう。個別の事情はそれぞれ異なっているため、どのような方法が有利であると一概に言うことはできません。


納税資金調達にあたっての留意点


 早い段階から売却にあてることができる土地の準備ができていなければ、売却額の折り合いがつかず売却できなかったり、相続だと知った相手に買い叩かれてしまったりすることもあります。期限内に納付できそうもない場合には売却できるまで延納することもできますが、この場合には納付するまでの利子税を負担しなければなりません。ちなみに、納税資金の調達方法として、近年、一般的に利用されるのが金融機関からの借入です。そもそも、延納が可能であったとしても、年3.6%~6.0%の利子税を払う必要があります。
 近年の低金利を考慮すると、民間の金融機関から借り入れて一時に返してしまった方が安くつく可能性もありますので、比較してご検討下さい。
 一般的には延納を選択するぐらいなら金融機関からの借入で相続納税資金を借入してしまった方がよいといわれています。不動産担保がありますし、金融機関からも比較的容易に資金調達することが可能です。

伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。