本コラムでは、当社の経験豊富なシニアマネージャーが過去に携わったM&A案件を事例としてご紹介いたします。この情報が関与先様へのアドバイスの一助となれば幸いです。
今回は、内部統制についてお送りいたします。
企業が戦略的に買収や資本参加を通じて他の企業グループに入ることはよくあることです。
M&A等において、企業評価するポイントは様々あり、収益性、技術力、知名度など、どこが高く評価されるかは企業によって夫々に異なりますが、内部統制も重要な注目点となっています。
内部統制と言うと、経理・労務管理・情報管理・社内規定など、管理体制やコーポレート・ガバナンスといった言葉を連想することが多い様ですが、企業会計審議会内部統制部会では、「内部統制とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスをいい、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT(情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成される。」と定義しています。
日本においては、会社法が、取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備を規定し、大会社に体制整備を義務付けています。
また、金融商品取引法は、上場会社は事業年度ごとに、当該会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要なものとして内閣府令で定める体制について、内閣府令で定めるところにより評価した報告書(「内部統制報告書」)を有価証券報告書と併せて内閣総理大臣に提出しなければならないと規定しています。
ところが、中小企業においては、内部統制整備は義務づけられておらず、また整備コストもかかることから大きな関心に至らず、後回しにされることも多かったのかもしれませんが、内部統制の整備は企業価値を増大させる上で大変重要な役割を負っているのです。
この内部統制への対応の在り方が企業経営に影響を与えた例を見てみましょう。
A社は金融テクノロジー企業として、小規模ながらもその技術力や市場の将来性を背景に徐々に取引を拡大しつつもキャッシュフローはまだまだ脆弱な状況にありました。そのため、成長に向けた資金調達ニーズも強く、私達の仲介で規模の大きな金融サービス企業B社からの出資が決まり、当該企業グループに参加することとなりました。
過半数所有となる子会社ではなく関連会社としてグループに参加し、経営者は自身の経営の発言力を保ちながら大きな企業グループの力を活用することで成長を加速させ、企業価値を増大させることを目指したわけです。
出資側企業では、出資検討のための審査を行ないますが、この過程で幾つか指摘がなされました。
取締役会設置会社になっていないこと、社内規定や管理体制が脆弱なこと、さらに管理と営業の両方がともに社長に集中してしまっていること等々ですが、これらは他の多くの小規模な企業にも指摘できるポイントです。
A社は、幾つかの指摘事項がありながらもビジネスの将来性が高く評価され、最終的には取締役会設置会社とすること、B社からの役員を受入れる事という条件で2億円の出資が行われることとなりました。
まずは順調な滑り出しに成功し、私達の役割も無事に終了しました。
・・・つづきは次回、『内部統制の重要性―②』でお送りいたします。
あわせて読みたい!
サービスのご案内