事業承継とは何か?と後継者を誰にするか?の問題(つづき)
④事業承継にまつわる恐ろしい実例 つづき ここ数年の自社の業績は低調であるので、株価なんて大したことないだろうと思い込んでいらっしゃるオーナー様は非常に多くいらっしゃいます。しかし、過去の自己資本が滞留している、大昔に購入した土地が相続税評価額では非常に高い価額がついた等で株価は大きくなっている可能性は多分にあります。また、前述の通り、近年は業績低迷のため無配当、さらに利益が赤字続きの場合には、税務上高い評価額を強制適用される会社に該当してしまうことになる場合もあります(比準要素数1の会社、比準要素数0の会社といいます)。
(イ)「株価が思いのほか高いため相続税額が多額になり、相続税の支払いができなくなってしまった」 被相続人の所有する自社株式は当然相続財産に含まれます。これが上記理由で非常に高いと相続税の総額が高額になるため、相続税の支払いができなくなってしまいます。自社の中でキャッシュが残っていれば別ですが、とりたてて現金がない場合、他の相続財産を売却して現金化する等、対処できる方法は限られます。ちなみに相続税の納税方法は原則、金銭一時納付ですが、支払を延期する「延納」もしくは相続財産のうち何か物で納付する「物納」という方法がありますが、両社ともきわめて要件は厳格です。特に物納の要件はは極めて厳しく事実上適用を受けることはかなり困難です。ちなみに多くの非上場会社の株式は譲渡制限株式ですが、この株式は物納できません(物納不適格財産)。
(ロ)「自社株式は後継者に全部移動できたけど、他の相続人からの遺留分減殺請求をおこされてしまった」 仮に相続税の納税資金は確保できて、現金一括納付による相続税の納付も可能だったと仮定します。それでもまだ恐ろしい問題がおこるのです。相続人には遺留分という「相続財産のうちの最低限の取り分」が民法に決められております。そして、それが侵害されたら、つまり、自分の相続財産が民法上の最低限の取り分である遺留分に満たなかったら、多く相続財産をもらった人にもっと財産をよこせという主張ができるのです。これを遺留分減殺請求といいます。仮に自社株式は後継者に全部相続できたとしても、他の相続人から遺留分減殺請求を受ける可能性は多分にあります。この場合、その後継者に現金がない場合には、自社株式を会社に売却して現金化します。これを会社側の立場からして「自己株式の取得」といいます。しかし、(イ)会社に株式を買い取るためのまとまった現金がない(ロ)自己株式の取得は会社法上の制限があります(財源規制)が、これにひっかかってそもそも会社が買い取ることができないということが考えられます。この場合、後継者は個人の生命保険解約や金融機関からの資金調達など無理やり現金を工面することになります。つまり、どうすることもできないのです。
⑤通常の対策 最初に会計事務所やコンサルティング会社が提出した「自社株式の評価額」は永遠に利用できるものではありません。定期的に評価替えをする必要があります。具体的には譲渡・贈与の時期が決まっていたらその時点で、決まっていなくても評価替えをして現状のもっとも適正な株価を把握しておきましょう。
具体的には
①上場有価証券②不動産 土地は路線価(又は固定資産税評価額)、建物は固定資産税評価額③ゴルフ会員権④保険積立金についてはすぐに評価替えができます。
このうち上記②不動産については株価にあたえるインパクトが最も大きいため、最新の路線価が公表されたらそこだけでも洗い替えることをお勧めします。最新の路線価は毎年6月下旬に発表されます。毎年定期的に自社株式がどの程度の水準なのかを知っておくことは非常に重要です。蛇足ですが、金融機関の格付けは株式評価と似たような作業を行うことが多いです(ただし、金融機関が株価を算定する場合はもっとシビアに行われます)。こういった定期的な株価の洗い替えは金融機関の格付け対策にも有効であると思われます。
なお、本稿では事業承継税制については触れておりません。現行制度は諸手続きが極めて煩雑で非常に使いづらく、実務上も適用件数が非常に少ないのが現状だからです。しかし、一定の会社については事業承継対策の一候補として考慮の範囲内に入れる価値は当然あります。