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COLUMN

2020.02.06税務コンサルのポイント

【株主間贈与】自己株式の取得―①

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3 自己株式の取得

※下記共通でグループ法人税制は考慮していません。
※厳密には税務仕訳上「みなし配当」の変動を考慮する点が多々あります。

(1) 個人⇒個人間の税務上評価額の適正時価
 個人⇒個人間における非上場株式の譲渡についての税務上の適正評価額のおさらいをしなければなりません。
 ・オーナー系⇒オーナー系   相続税評価額(原則)
 ・オーナー系⇒少数株主    配当還元方式
 ・少数株主⇒オーナー系    相続税評価額(原則)
 ・少数株主⇒少数株主     配当還元方式
 メルクマールは「買手」の属性です。当該譲渡により買手の支配権の維持、拡充に資するのであれば、その移動時の株価は高い評価額になります。
 「低額」であればみなし贈与の論点は生じます。しかし「時価」「著しく低い価額」について相続税法第7条及び通達等に規定はありません。したがって上記までに列挙してきた、または第5章でまとめている過去の裁決・裁判例・判例を実務上、ヒントにするほかはありません。
 もっとも、上記の税務上適正評価額で取引すれば全く問題は生じませんので、上記評価額で保守的にやられるのもよいかと思いますし、過去の裁判例等でダンピング幅を概ね決定することも可能かと思われます。
 このダンピング幅は、後述の(2)で述べるダンピング幅と考え方は共通です。そちらを併せてご参照ください。

(2) 個人⇒法人間の税務上評価額の適正時価
① 個人⇒法人間の非上場株式の移転についての税務上の適正評価額
 個人⇒法人間の非上場株式の移転については、税務上の適正評価額は下記のようになります。
 ・オーナー系⇒オーナー系関連会社(自社株式含む)
   所得税基本通達59-6 (時価純資産価額も可)
 ・少数株主⇒オーナー系関連会社
   配当還元方式価額
 実務上、留意していただきたいのは「あくまで原則は所得税基本通達59-6を用いる」ということです。しかし、「課税上、弊害がないときに限って」配当還元方式を使用することができる、という立て付けになっています。
 その「課税上、弊害がないときに限る」のメルクマールが「純然たる第三者」概念です。これに該当すれば「課税上弊害がないときに限る」に該当するのです。
 ここで非上場株式の「評価」に関する裁判例を眺めてみましょう。

〔参考〕【 法人税額等相当額控除の可否/非上場株式の低額譲渡と新株の有利発行における時価】
最高裁判所第三小法廷平成14年(行ヒ)第112号所得税更正処分等取消請求事件(破棄差戻し)国側当事者・武蔵府中税務署長、新宿税務署長、渋谷税務署長平成17年11月8 日判決〔税務訴訟資料 第255号-314(順号10195)〕〔判例時報1916号24頁〕〔判例タイムズ1198号121頁〕〔訟務月報52巻11号3503頁〕
〔判決要旨〕
 所得税基本通達(平成10年課法8-2 、課所4-5による改正前のもの)23~35共-9 (4)(株式等を取得する権利の価額)は、発行法人から有利な発行価格による新株を取得する権利を与えられた場合における当該権利に基づく払込みに係る期日における新株の価額について、当該新株が非上場株式で気配相場や売買実例がなく、類似法人比準方式により評価することができない場合には、上記期日又はこれに最も近い日における発行法人の1 株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額とする旨を定めており、同通達の定めは、株式の低額譲受けに係る給与所得の金額及び株式の譲渡に係る譲渡所得の金額を計算するために株式の価額を評価する場合において、当該株式が非上場株式で気配相場や売買実例がなく、類似法人比準方式により評価することができないときにも妥当するものと解されるが、このような一般的、抽象的な評価方法の定めのみに基づいて株式の価額を算定することは困難である。
 財産評価基本通達の定める非上場株式の評価方法は、相続又は贈与における財産評価手法として一般的に合理性を有し、課税実務上も定着しており、これと著しく異なる評価方法を所得税及び法人税の課税において導入すると、混乱を招くこととなるため、法人税基本通達9-1-15(企業支配株式等の時価)は、法人税課税において、財産評価基本通達を無条件で採用することには弊害があるため、発行会社の有する土地を時価で評価するなどの条件を付して財産評価基本通達が定める1 株当たりの純資産価額の算定方式を採用しているが、このような修正をした上で財産評価基本通達所定の1 株当たりの純資産価額の算定方式にのっとって算定された価額は、一般に通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものとして、所得税基本通達23~35共-9(4)(株式等を取得する権利の価額)にいう「1 株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に当たるというべきである。
 財産評価基本通達185が、1 株当たりの純資産価額の算定にあたり法人税額等相当額を控除するものとしているのは、個人が財産を直接所有し、支配している場合と、個人が当該財産を会社を通じて間接的に所有し、支配している場合との評価の均衡を図るためであり、評価の対象となる会社が現実に解散されることを前提としていることによるものではない。したがって、営業活動を順調に行って存続している会社の株式の相続及び贈与に係る相続税及び贈与税の課税においても、法人税額等相当額を控除して当該会社の1 株当たりの純資産価額を算定することは、一般的に合理性があるものとして、課税実務の取扱いとして定着していたものである。



 ここで実務上、勘違いしやすいのは法人税基本通達9-1-15の位置づけです。結論から申し上げると、これは「評価」の通達ではなく「評価損」の通達として位置付けられます。
 「この企業支配に係る対価の額については、その株式の保有を通じて企業支配の状態が存続している限りその価値に変化はないものと考えられるから、たとえその株式の発行法人の資産状態が著しく悪化したとしても、その企業支配権的対価の部分についてまで評価損を認めることは適当ではない。そこで、法人の所有する企業支配株式の取得がその株式の発行法人の企業支配をするためにされたものと認められる場合には、その株式の通常の価額にその企業支配権の対価の額を加算した金額を時価として取り扱うこととされ、企業支配に係る対価の部分について評価減ができないこととされている」とあります(注)。


 ・・・次回、「評価」についてお話します。


(注釈)

(注)法人税基本通達逐条解説八訂版小原一博編著723頁










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伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。