(2) 属人株による利益移転
属人株は①配当期待権②残余財産分配請求権③議決権の3種について定款に定めるだけで異なる取扱いをすることが可能です。ただし導入には特殊の決議が必要になります。
属人株は当局から税務上の取扱いについて一切公表されていません。将来の法改正リスクを考えると非常に導入しにくいものと思慮します。
①配当期待権と②残余財産分配請求権の取扱いですが、これは下記の2ケースを考えてみます。
例えば出資者がA、Bの2人いるとします。この2 人は赤の他人でジョイントベンチャーを行うものとします。Aは顧客500もっている、Bは顧客2,000をもっているという状況で、配当についてA:Bは1:4でも特に課税上の問題は生じないと思われます。第三者間の取決めだからです。
一方、Aが親、Bが子供で上記と同じような配当の取決めをしたとします。同族法人で、A、Bの業務内容はほぼ変わりません。この場合、AからBへの生前贈与(みなし贈与)があったと「認定されるおそれ」があります。
こういった事情から財産権については属人株を導入するケースは今のところ非常に稀なケースだと考えられます。
なお、税理士法人についても持分払戻請求権を定款で実際の持分と変更することは可能ですが、その場合、課税関係(みなし贈与)が生じる可能性もあるので十分ご留意ください(「税理士法人の手引」日本税理士会連合会)。
また、持分ある社団医療法人において相続税法第9 条の適用があった事例があります(平15.3.25裁決)。
(財産の評価(医療法人の出資持分の評価)) 医療法人の出資持分の評価は財産評価基本通達に定める方法により算定した価額が相当であるとした事例(平成10年分贈与税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分・棄却・平15-03-25裁決)〔裁決事例集第65集743頁〕
(裁決の要旨)
請求人らは、医療法人は非営利法人であり株式会社とは性格を異にすること及び相続税法9 条は同族会社のみに適用すべきと解されることから本件増資に贈与税を課税することは誤っており、また、医療法人の場合、増資持分の権利は、増資後の期間に及ぶ(東京高裁平7.6.14判決)のであるから、増資により取得した持分の価額は出資額と同額となり経済的利益は生じないので、同条は適用されない旨主張する。
しかしながら、本件医療法人は、持分の定めのある社団医療法人であり、同法人の新定款全体の定めや定款の変更の可能性の有無などを総合的に判断すると、本件増資により取得した財産権たる持分の価額と本件増資に係る出資額との差額を本件増資により取得したものと認められ、相続税法9 条の規定は医療法人を除く旨定めたものでもないから、同条の規定の適用があるものと解される。また、請求人の主張する判決は、事件の個別事情を考慮した判決であって、医療法の解釈として請求人の主張するような趣旨を判示したものとは認められない。
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税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。