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COLUMN

2020.01.09税務コンサルのポイント

【株主間贈与】金銭出資―①

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2 金銭出資

※下記共通ですが、グループ法人税制については考慮していません。

(1) パターン別株主間贈与
① 有利発行により個人⇒個人への株主間贈与
 第三者割当の引受を行う者において贈与税の問題は生じます。ちなみに所得税法59条第1 項のみなし譲渡益課税は個人⇒個人間では絶対に発動しません。個人⇒法人間のみです。
 父親が保有する会社が第三者割当増資により息子に対して新株を割り当てた場合、その新株を取得するために通常要する価額よりも有利な金額である場合には父親から息子に対する贈与があったものとみなされます。
 なお、相続税基本通達9-4 が同族法人に限定しているのは、上記のような利益移転を容易に行うことが可能であるからです。

② 有利発行による個人⇒法人への株主間贈与
 有利発行により有価証券を取得した者が法人で、他の株主が個人である場合には、個人から法人への贈与に当たることから贈与税の適用対象となりません。有利発行により有価証券を取得した法人において受贈益は認識されます。
 また、既存の個人株主から有利発行により有価証券を取得した法人に対して無償による資産の譲渡またはその他の取引があったものとみなして、既存の個人株主に対して譲渡益課税を課すことができるか否かは法人税法ではなく、所得税法の問題です。

③ 有利発行による法人⇒法人への株主間贈与
 第三者割当増資により有利発行が行われた場合、株式の割当を受けた者に対して受贈益課税がなされます。既存の法人株主に対して課税関係は生じません。
 しかし、既存の法人株主にも課税関係を生じるものと判示したオウブンシャ・ホールディングス事件(最判平成18年1 月24日)があります。
 本件当時は、現物出資についての譲渡所得課税が圧縮記帳によって繰り延べられていましたが(平成10年改正前法人税法51条)、現在では、現物出資時に出資財産の含み益に課税されるので、本件節税スキームは封じられています。
 しかし、株主間利益移転の最も基本的な考え方となる、特に「経済的利益移転」が広範囲に捉えられていることに関してですが、重要判例の1 つですので判決文を確認しておいてください。

④ 高額引受けによる個人⇒個人への株主間贈与
 後継者である長男が保有する会社が第三者割合増資により父親に対して新株を発行した場合、その新株が高額引受けである場合には、父親から長男への贈与があったものと考えられます。相続税基本通達9-2 では、当該増加部分につき贈与があったものとすることが明示されています。
 ちなみに当該会社が債務超過であるとして、第三者割当増資後も債務超過である場合には、当該会社株式の時価は0 円で、当該会社の株式価値は増加していないことになります。この場合、連帯保証債務の実質的な債務引受けのような贈与行為がある場合を除き、贈与税の課税対象となりません(相基通9-3 )。
 
⑤ 高額引受けによる法人⇒個人への株主間贈与
 課税上の問題は特に生じません。贈与税においては相続税基本通達9-2 がありますが、所得税法上は通達も含めて類似の規定は一切ありません。

⑥ 法人株主における高額引受けによる有価証券の取得
 結論を申し上げると特に課税問題は生じないものと思慮します。より実践的な説明をすると税務調査の現場でも特に問題になることはありません(これは高額譲渡等他の高額取引でもほぼ共通の認識であると思慮します)。
 ここで問題に上がるのは法人税基本通達9-1-12です。典型的な租税回避行為と思われる取引として下記の方法が考えられます。

 (イ) 増資直前に株式を譲渡することで、株式譲渡損失を認識することを目的として行われた高額引受け
 債務超過10億円の法人に、10億円の増資をします。その後、当該増資により取得した有価証券を備忘価額1 円で関係会社に譲渡する場合、10億円の譲渡損が生じます。相互タクシー事件(最判昭和41年6 月24日)が最も有名な判例です。ただし、古い判例なのでそのまま使うことはできません。過去の判例評釈を参考に結論だけ示します。
 まず、高額引受けであっても払込をした金銭の額をそのまま有価証券の取得価額として処理し、不当に法人税を軽減する目的がある場合のみ法人税法第132条の適用があると考えます。すなわち高額部分は寄附金認定されるはずです。
 また今日的観点から追加でいえば、高額引受けが適格分社型分割等により行われた場合は法人税法第132条の2 の発動可能性も考えられます。
 なお、類似の事案として日本スリーエス事件(東京地裁平成12年11月30日)で132条に基づいて更正処分が行われていたりもしますが、法人税の事案なのでご興味のある方は各自参照してください。
 (ロ)他の株主に贈与を行うことを目的とした高額引受け
 上記イに付随して法人税法第132条の適用により寄附金認定される可能性がある場合のみ留意が必要です。










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伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。