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COLUMN

2019.12.20税務コンサルのポイント

【株主間贈与】総説―②

  • 富裕層コンサルのイロハ
  • 相続

②同族会社の増資があった場合の贈与税(相基通9-4)

 当会社は、資本金5,000万円の同族会社です。発行済株式総数は10万株(1株当たりの相続税評価額1,500円)で、私(A)が8万株、長男(B)が1万株、次男(C)が1万株所有しています。この度倍額増資(1株当たり払込金額500円)を行いBが5万株、Cが5万株の合計10万株を引き受けました。課税関係はどうなるのでしょうか。

 B、Cは、募集株式引受権をAから無償で取得したことになり、贈与税が課税されます(相法9)。
 相続税法基本通達9-4において、誰からどれだけの数の募集株式引受権の贈与があったものとするかは、次の算式により計算するものとし、この場合において、その者の親族等が2人以上あるときは、親族等の1人ごとに計算します(相基通9-5)。

A×C/B= その者の親族等から贈与により取得したものとする募集株式
  引受け数
 算式中の符号は、次の通り。
 A:他の株主又は従業員と同じ条件により与えられる募集株式引受権の数を超えて与えられた者のその超える部分の募集株式引受権の数
 B:当該法人の株主又は従業員が他の株主又は従業員と同じ条件により与えられる募集株式引受権のうち、その者の取得した新株の数が、当該与えられる募集株式引受権の数に満たない数の総数
 C:Bの募集株式引受権の総数のうち、Aに掲げる者の親族等(親族等が2人以上あるときは、当該親族等の1人ごと)の占めているものの数


 今回の場合、贈与とみなされる価額は、下記の通り計算します。

1)増資後1株当たりの価額
       
旧株の価額+募集株式1株当たりにつき払い込むべき金額A×旧株1株に対する募集株式引受権の割当数B
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
                     1+B
  
1,500円+500円× 1
―――――――――― =1,000円
   1 + 1

2 )贈与とみなされる募集株式引受権の価額( 1 株当たり)
  増資後の株価-払込金額の金額
  1,000円-500円=500円
3 )B、CがAから贈与を受けたとみなされる金額
  B、CはともにAから40,000株の募集株式引受権を受けた金額
  500円×40,000株=2,000万円


  
 また、募集株式引受権の贈与で、親族以外の人が割当てを受けなかったことによって得た募集株式引受権の額は一時所得となります(所法34)。
 上記相続税基本通達9-2との対比です。9-4では考え方が下記のように変わります。
 当該通達は株主間の経済的利益移転の規制であり、法人との取引は関係しません。要するに、経済的利益の増加がないまま、同族関係者間でその利益移転の配分をどのようにしようか、ということへの規制です。このため受贈者を無制限にすることは通達の趣旨から外れ、必然的に対象者を株主の親族等をしているわけです。

③同族法人の新株発行に伴う失権株に係る新株不発行(相基通9-7)
 1 対1 の倍額増資を実施し募集株式引受権の付与があった場合において、その50%が失権株となり、その失権株について新株発行を取りやめれば当初から半額増資を行ったことと同じになります。
 当初から半額増資の決議を行い、それに伴う募集株式引受権を特定の株主に変則的に付与したことと同様です。

伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。