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COLUMN

2019.12.10税務情報

「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」に係る改正事項

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1. はじめに
 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置(以下、「結婚・子育て資金一括贈与」と記載します。)は、我が国の家計資産の約6割を60歳以上の世代が保有しているという状況を受け、高齢者層が有する金融資産を早期に若年層に移転して経済の活性化につなげるとともに、若年層の結婚に対する経済的不安を取り除くことにより結婚・出産・教育を後押しすることを狙いとして、平成27年度税制改正において創設されました。
 当初は平成31年3月31日までの時限措置でしたが、今般の平成31年度(令和元年度)税制改正において、適用期限が令和3年3月31日まで延長されるとともに、適用要件の一部が改正されました。
 本稿においては、結婚・子育て資金一括贈与の制度内容について、再整理を行います。



2.制度の概要
(1)概要
 結婚・子育て資金一括贈与とは、直系尊属である贈与者が、20歳以上50歳未満の受贈者に対して、結婚費用・子育て費用に充てるための金銭等を、金融機関等に信託することにより一括贈与した場合、1,000万円を限度として非課税とされる制度です。

(2)実務上の留意点
 ①扶養義務との関係
 

直系血族は互いに扶養の義務がある(民法877条)ことから、そもそも直系尊属が子・孫の結婚・子育ての費用を、その必要となる都度において負担した場合は、贈与税の課税の対象にはなりません。ただし、必要となる都度ではなく「一括」で贈与した場合は、贈与した金額に贈与税が課せられます。
特に子育て費用は多額の資金が長期間にわたり必要となるため、まとまった資金を「一括」で贈与することで贈与者および受贈者の便宜を図ることができます。教育資金一括贈与制度と同様に、この点に本制度を活用するメリットがあります。



 ②使途の制限
 

資金の使途は「結婚関係費用」と「子育て関係費用」とされ、それぞれ以下のように規定されています。


  (ア)結婚関係費用:

挙式費用、衣装レンタル費用、結婚披露宴費用、新居の家賃等(敷金、礼金含む)、転居費用等


  (イ)子育て関係費用:

不妊治療費用、妊婦健診費用、分娩費用、産後ケア費用、小学校就学前の子の医療費、幼稚園・保育所費用等
 
 なお、非課税限度額は(ア)と(イ)の合計で1,000万円ですが、そのうち(ア)は300万円が限度とされています。



 ③金融機関への信託

特例の適用を受けるためには、金融機関と税制上の要件を満たす結婚・子育て資金管理契約を締結した上で、信託等を行うことにより金銭等を贈与しなければなりません。



 ④領収書等の提出

受贈者は、結婚・子育て資金として支出した領収書等を、以下の期間内に、信託の受託者である金融機関の営業所等に提出することを求められます。


イ)いわゆる「領収書払い」(贈与を受ける者が、結婚・子育て関係費用を支払った後に、当該金額を金融機関から払い出す方式)の場合
… 領収書等に記載された支払年月日から1年以内
ロ)いわゆる「請求書払い」(贈与を受ける者が、請求書等を金融機関に提供して、金融機関から結婚・子育て関係費用を支払う方式)の場合
… 領収書等に記載された支払年月日の属する年の翌年3月15日まで



 ⑤終了事由とそれぞれの場合の課税関係

次の事由に該当することとなった場合、結婚・子育て資金管理契約は終了することとなります。


イ)受贈者が50歳に達した場合
ロ)結婚・子育て資金管理契約に基づき信託された財産が零となった場合
ハ)受贈者が死亡した場合


イ)またはロ)に該当したことにより結婚・子育て資金管理契約が終了した場合に、非課税拠出額から結婚・子育て費用支出額を控除した残額があるときには、その金額について贈与されたものとして贈与税が課税されます。
ハ)に該当したことにより結婚・子育て資金管理契約が終了した場合には、上記の残額があるときにも、受贈者に対する贈与税は課税されないこととされています。なお、上記の残額は、受贈者の相続財産となります。



 ⑥贈与者が死亡した場合の取り扱い

贈与者が死亡した場合、その時点における残額について相続税の課税対象となります(相続税額の二割加算の適用はありません)。贈与者が死亡した際の取り扱いについて、類似の制度である教育資金一括贈与と差異があります(※)が、これは、結婚・子育て資金一括贈与には居住費等の幅広い使途があり、相続税回避に使うことが容易であることが理由とされています。



※ご参考:教育資金一括贈与の場合
贈与者の相続開始前3年以内に行われた贈与について、受贈者が23歳未満の場合などは、相続開始時における管理残高が相続財産に加算されることとなりました(平成31年4月1日以後に信託される金銭等に適用)。





3.改正のポイント
平成31年度(令和元年度)税制改正により、受贈者の所得に係る要件が追加されました。これにより、贈与が行われた年の前年の受贈者の合計所得金額が1,000万円を超えている場合には、本制度を適用することができなくなりました(平成31年4月1日以後に信託される金銭等に適用)。



4.おわりに
 結婚・子育て資金一括贈与は、将来にわたって必要となる結婚から子育てにかけての資金を事前に一括贈与することが可能となり、教育資金一括贈与と同様に計画的な相続対策の一助となる制度です。適切に活用することにより、贈与者の毎年の贈与の手間が不要となるとともに、受贈者は結婚・子育てにかかる費用の資金繰りに早期に目途をつけることができるといったメリットを享受できることとなります。
 類似の制度である教育資金一括贈与とは、資金使途以外の要件は同様と考えがちですが、贈与者が死亡した際の取り扱いなどには差異があるため、注意が必要です。









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安井 孝徳

ひのき共同税務会計事務所/麹町オフィス代表 税理士平成10年早稲田大学社会科学部卒。デロイトトーマツ税理士法人を経て現職。上場企業及び外資系企業に対する税務申告業務から、公益法人コンサルティング業務、連結納税コンサルティング業務、事業再編・M&Aに係る税務業務、ストラクチャー検討業務、オーナー企業に対する税務業務などに従事。また、外資系企業やIPO準備会社など数社の監査役も兼務している。著書に「税理士のための会社清算の法律会計税務と申告書作成」(共著、清文社)、「Q&A業種別消費税の実務」(共著、中央経済社)がある。