6.税務調査の本題へ
7.最近の傾向と対策
①国税通則法という税務調査の手続きを定める法律が改正され、実地調査における税務職員側は過大な事務を抱えるようになりました。したがって、件数もこなせなくなってきています。実際、国税通則法改正後、実地調査の件数は急激に減少しています。今後もこの傾向は続くといわれています。
ちなみにこの国税通則法の改正により法人税等の税務調査の場合には、税務署等からの事前通知をしたうえで、資料収集という流れになりました。しかし、相続税に関して言えば、取り扱いは別です。上記のように相続人等の承諾なしで、事前の資料収集を徹底的に行います。
②先述のとおり相続税大増税により、相続税の申告件数は間違いなく増加すると思われます。しかし実地調査はマンパワー不足でできないこと、小口の案件が増加することから、先述の「お尋ね」等、文書による照会が中心となっていくといわれています。つまり、そこでの対応が非常に重要であるということです。
③賃料収入がある個人事業主、つまり不動産所得として確定申告をしている地主様等に「税務署からのお尋ね」が送付されることが非常に多くなっています。これは先述のように税務署側の事前の情報収集です。できるだけ丁寧に速やかに回答すべきです。
④預貯金の指摘事項が圧倒的に多いことはすでにお話しました。具体的には下記のような預貯金が指摘されます。親が子のためを思って、子には内緒で生前に定期預金をしていた、という話はよくあることです。親は子に贈与していたと認識しているが、当の子はそれを知らないといった性格をもつ預貯金です。これを税務の世界では「名義預金」といいます。この名義預金は親から子への贈与とみなされず、親の相続財産として申告しなさい(修正申告)と税務署側から認定されることになります。
実は相続税の税務調査により指摘を受ける預貯金に関する事項の圧倒的多数がこの名義預金なのです。この対策としては非常にさまざまな方法があります。最低限やっておくべきこととしては、生前に (1) 贈与契約書の作成をすること (2) 贈与税の申告をすること (3) 贈与した金銭等は通帳を通すこと (4) 贈与された金銭を実際に生活費等に使うこと(贈与された側が、このお金は親から贈与されたお金であることを認識していることの客観的証明になります。)等の対策が必要です。
⑤法人税等の税務調査と同様、最終的には交渉で決定する場面もあります。
これについては、やはり相続税(資産税)専門の税理士に依頼した方がよい結果に向かうことでしょう。
税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。