MENU MENU

COLUMN

2019.12.06税務コンサルのポイント

【株主間贈与】総説―①

  • 富裕層コンサルのイロハ
  • 相続

今回からは、みなし贈与税についてです。
株主間贈与について取り上げていきます。


1 総説
(1) 簡便的なまとめ
 「株式」の異動という側面でとらえるとそれが生じる取引は下記に限定されます。
 ・相続
 ・遺贈
 ・贈与
 ・譲渡
 ・増資
 ・減資
 「株主」に贈与税が課税される取引例は下記の通りです。
 同族法人が個人との間 で下記の取引をして、同族法人の株式の価額が増加したときは、株主は当該価値の増加分の贈与を下記に示す者から受けたものとして株主に贈与税が課されます。
 ①贈与(同族法人が遺言により被相続人から遺贈を受けた場合には、株主に相続税が課されます)を受けた場合
  同族会社に対して財産を贈与した者
 ②現物出資(著しく低い価額による現物出資)を受けた場合
  現物出資した者
 ③債務免除(債務弁済、債務引受も含む)してもらった者
  債務免除した者
 ④財産の取得(著しく低い価額による取得)
  財産を譲渡した者

(2) 個別論点
①著しく低い価額で同族会社に資産を譲渡した場合の贈与税
 事例で考えてみます。
 

私は自分が経営している同族会社に工場敷地として時価12,000万円の土地を5,000万円で譲渡しました。この場合、その会社の株主である私の妻子に贈与税が生じるでしょうか。

 株式の価額の増加という経済的利益を贈与により取得したものとされます。株式又は出資の価額が増加した場合については、次のように取り扱われることになっています(相基通9-2)。
 

 ■相続税基本通達9-2
 同族会社の株式又は出資の価額が、例えば、次に掲げる場合に該当して増加したときにおいては、その株主又は社員が当該株式又は出資の価額のうち増加した部分に相当する金額を、それぞれ次に掲げる者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする
 この場合における贈与による財産の取得の時期は、財産の提供があった時、債務の免除があった時又は財産の譲渡があった時によるものとする(※筆者注:提供を受けた同族法人には法人税課税が生じますし、キャピタルゲインの含み益のある財産を提供した者は譲渡所得税等が課税されます)。
 (イ) 会社に対し無償で財産の提供があった場合 当該財産を提供した者(※筆者注:当該法人にはその受贈益に対して法人税が課税されます。法人の株式の価額の増加額はその法人税負担を控除して計算することになります)
 (ロ) 時価より著しく低い価額で現物出資があった場合 当該現物出資をした者(※筆者注:既設の法人で低額の現物出資があればその差額は既存の株主の有する株式の価額の増加をもたらします)
 (ハ) 対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合 当該債務の免除、引受け又は弁済をした者
 (ニ) 会社に対し時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡をした場合 当該財産の譲渡をした者(※筆者注:(ハ)(ニ)共通で、この場合も(イ)と同様に会社の純資産が増加した部分に対応する贈与があったものとします)



 当該法人は、私に5,000万円支払うことにより12,000万円の土地を所有することとなり、その差額7,000万円の含み資産を持ったこととなります。
 このため、当該法人の株式の評価額は、土地の取得前よりも高額となり、私以外の株主は株式の評価額の増加部分に相当する利益を、私から贈与によって取得したものとされ贈与税がかかることになります。
 ただし、この場合、会社が資力を喪失した状態であれば、会社が受けた利益のうち、会社の債務超過額に相当する部分の金額については、次のように取り扱われます(相基通9-3)。
 同族会社の取締役、業務を執行する社員その他の者が、その会社が資力を喪失した場合において9-2の(1)から(4)までに掲げる行為をしたときには、それらの行為によりその会社が受けた利益に相当する金額のうち、その会社の債務超過額に相当する部分の金額については、9-2にかかわらず、贈与によって取得したものとして取り扱わないものとします。
 なお、会社が資力を喪失した場合とは、法令に基づく会社更生、再生計画認可の決定、会社の整理等の法定手続による整理のほか、株主総会の決議、債権者集会の協議等により再建整備のために負債整理に入ったような場合をいうのであって、単に一時的に債務超過となっている場合は、これに該当しないので留意してください。
 従って、意図的に債務超過状態を「作出」し、贈与課税を逃れようとする行為は当局から非常に指摘されやすいものと思慮します
 また、私が譲渡した土地については、その土地の時価で譲渡したものとみなされて、譲渡所得の課税の対象となり、所得税の申告が必要となります(所法59)。
 なお、平成26年3 月14日東京国税局文書回答(所得税法第9 条第1 項第10号の非課税所得)においては、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合における破産手続などの強制換価手続による資産の譲渡による所得は非課税とされていますが(所法9 ①十、通法2 十)、この「譲渡による所得」に配当所得や株式等に係る譲渡所得等は除かれていませんので、強制換価手続による資産の譲渡により生じる配当所得や株式等に係る譲渡所得等も含まれるとされています。
 さらに、相続税法第9 条「当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなす」の規定に基づく低額譲受けの裁判例があります。

〔参考〕大阪地裁 昭和53年5 月11日判決
【非上場株式の時価/「低額譲受け」と「著しく低い価額」】
 A会社がB会社の株主からB会社株式を時価よりも著しく低い価額で譲受けた場合には、当該低額譲受けにより増加したA会社の純資産額に相当する経済的利益の額につきB会社株主からA会社株主に贈与があったものとされた。


 この裁判例は相続税基本通達9 ― 2 を是認した裁判例です。また非上場株式評価における「著しく低い」という不確定概念にも一定の考え方を示唆しています。極めて重要な裁判例ですので、後述します。
 なお、相続税基本通達9 ― 2 の取扱いは、贈与を受けたものとみなされる者が相続税基本通達9 ― 4 の場合と異なり、同族関係者に限定されていません(当局から、その理由について特に説明されたものはありません)。 
 
 もう一例、参考までに確認しておきましょう。
 
同族法人に無償で財産の提供があったことにより、その法人の株式の価額が増加した場合には、その法人の株主は所有株式の価額の増加相当額を財産の提供者から受贈したものとみなすされますが、株主が法人の場合にもこれに準じて取り扱われるのでしょうか。

 相続税基本通達9-2は、贈与税の課税財産のうちみなし贈与財産に関して示された取扱いで、原則として個人株主の場合だけの取扱いです。
 贈与税は原則として個人間の贈与について受贈者が納税義務者となり、法人が納税義務者となるのは、財産受贈益に法人税が課税されない公益法人等だけです。
 この相続税基本通達9-2が、法人税のうえでも同趣旨の認定がなされるかどうかですが、本例の場合、会社の所有する株式の発行会社において、他から財産の贈与があったことは、当該株式の発行会社が事業上利益を計上したことによる法人株主の利得と同様であり、株式の取得価額は変わらず、法人株主に課税されることはないものとされます(法法61の2 、法令119)。
 さて、相続税基本通達9-2と後述の9-4との対比で説明すべきことがあります。
 9-2は法人が株主と取引を通じて新たに獲得した経済的利益が、法人を通じて取引当事者間「外」の別の株主に移転することへの規制です。受贈者は現実にその利益相当額が増加しているので受贈者についての制限がありません。

伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。