過去に日本で行われたM&Aの特徴的な事例についてご紹介していきます。文中の記載には私見が含まれていることをあらかじめご了承ください。
今回は、2019年11月18日にプレスリリースのあったZホールディングス株式会社(ヤフーの親会社、以下「ZHD」)とLINE株式会社(以下、「LINE」)の経営統合について記載します。両社は対等な精神に基づく両者グループの経営統合について、資本提携に関する基本合意書(法的拘束力はなし)を締結しました。それぞれの経営資源を集約し、それぞれの事業領域におけるシナジーを追求するとともに、AI、コマース、Fintech、広告・O2O、その他の新規事業領域における成長を目指して事業投資を実行することで、日本及びグローバルにおける熾烈な競争を勝ち抜くことができる企業グループへと飛躍することを目的とします。
ZHD、LINEの2社を束ねる新会社はソフトバンク株式会社(以下、「ソフトバンク」)の連結子会社になりますが、ネイバー株式会社(LINEの親会社で、韓国国内では最大手のインターネット検索ポータルサイト。以下、「NAVER」)も新会社に50%を出資する大株主となります。統合後は両社が持つユーザー基盤やデータ、人材といった経営資源を集約し、大規模な開発や投資を行えるようにすることで、事業を強化し、GAFAやBATといった海外の大手IT企業に対抗する考えですが、事業運営を進めるうえで、今後は2社間での調整が必要となる見通しであり、これまでグループ内で完結してきた意思決定に乱れが生まれる可能性もあります。統合に対する期待もある反面、株式の希薄化と、見えにくい統合後のシナジーへの不安もあり、11月13日の日本経済新聞のリーク記事後に急騰したZHDの株価は11月18日の経営統合の正式発表後、リーク前の水準に戻ってしましました。
以下では、本統合基本合意書において、ZHD 及び LINE は、ソフトバンク及び NAVER を含む 4 社間で合意されている複雑な統合ストラクチャーについて解説していきます。
統合計画発表時の各社の株主構成は以下の通りとなっています。
ソフトバンクはZHDの過半数の議決権を有していませんが、ソフトバンクの財務及び営業又は事業の方針の決定に関して影響を与えることができる者が、ZHDの取締役会その他これに準ずる機関の構成員の過半数を占めているため連結子会社となっています。
統合ストラクチャーは、まず、NAVER 又はその完全子会社(NAVER と併せて、以下「NAVER ら」といいます。)とソフトバンクとが共同して、LINE の非公開化を目的として、対象株式等の全てを取得することを目的とした共同公開買付けを実施します。共同公開買付けが成立し、本共同公開買付けにおいて対象株式等の全てが取得されなかった場合、LINE の株主を NAVER ら及びソフトバンクのみとし、LINEを非公開化するための、株式の併合その他の方法を用いたスクイーズアウト手続を行い、LINE の株主に対して本共同公開買付けにおける公開買付価格と同額の対価を交付します。
スクイーズアウト手続とは、少数の株主や特定の株主から、大株主が強制的に株式を取得する手法です。LINEの株主をソフトバンク及びNAVERのみとすることで、さらに実施する再編手続の迅速化も図れます。
次に、ソフトバンクが保有するZHD 株式の全部をLINEに対して移管する取引を行います。それと並行し、NAVERら及びソフトバンクの間における一方の保有するLINE 株式の他方に対する一部譲渡等を通じて、NAVER ら及びソフトバンクの保有するLINE の議決権割合を 50:50 とする取引を行います。なお、本件 JV 化取引を経て、LINE はソフトバンクの連結子会社となります。
本件 JV 化取引と並行し、LINE が新たに設立するその完全子会社(以下「LINE 承継会社」といいます。)に対して LINE の全事業(但し、ZHD 株式及び本経営統合に関して LINE が締結した契約に係る契約上の地位その他吸収分割契約において定める権利義務を除きます。)を承継させる吸収分割を行います。
最後に、会社分割の効力発生後、ZHD を株式交換完全親会社、LINE承継会社を株式交換完全子会社、 その対価を ZHD 株式とし、本統合スキームは完成します。
前回のコラムにも記載しましたが、この統合により、ソフトバンクグループを筆頭とするグループ資本関係ははますます複雑化し、親子会社上場問題も含め、グループガバナンスの議論も活発化すると考えられます。
(Source: プレスリリース、日経新聞等)
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公認会計士・税理士・中小企業診断士
東京大学 工学部卒
ビジネスアスリーツ株式会社代表取締役
ヴィスコ・テクノロジーズ株式会社社外取締役みすず(旧中央青山)監査法人、プライスウォーターハウスクーパース株式会社を経て、ビジネスアスリーツ株式会社を設立。
金融商品取引法監査、会社法監査、学校法人監査等の法定監査経験に加え、IPO支援業務、M&Aアドバイザリー業務(ファイナンシャルアドバイザー、買収ストラクチャー検討、財務デューデリジェンス、財務モデリング、バリュエーション、SPA作成サポート、PMI支援等)、再生計画立案支援等に関し、幅広い業種での経験がある。