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COLUMN

2019.11.12税務情報

「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」に係る改正事項

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1. はじめに
 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置(以下、「教育資金一括贈与」と記載します。)は、我が国の家計資産の約6割を60歳以上の世代が保有しているという状況を受け、高齢者層が有する家計金融資産を早期に若年層に移転することにより経済の活性化につなげることを狙いとして、平成25年4月に創設されました。
 当初は平成27年12月31日までの時限措置でしたが、平成27年度及び平成29年度の税制改正により適用期限が平成31年3月31日まで延長されました。そして今般、平成31年度(令和元年度)税制改正において、教育資金一括贈与の適用期限が令和3年3月31日まで延長されるとともに、適用要件の一部が改正されました。
 本稿においては、教育資金一括贈与の制度内容についての整理をしたうえで、改正点を確認いたします。



2.教育資金一括贈与制度の概要
(1)概要
 教育資金一括贈与制度とは、直系尊属である贈与者が、30歳未満の子・孫である受贈者に対して、教育資金を金融機関等に信託することにより一括贈与した場合、学校等に支払われる金銭については1,500万円(塾等に支払われる金銭等については500万円)を限度として非課税とされる制度です。

(2)実務上の留意点


①扶養義務との関係
 直系血族は互いに扶養の義務がある(民法877条)ことから、そもそも直系尊属が子・孫の教育費用を、その必要となる都度において負担した場合は、贈与税の課税の対象にはなりません。ただし、必要となる都度ではなく一括で贈与した場合は、贈与した金額に贈与税が課せられます。
教育費用は長期間にわたり多額の資金が必要となるため、まとまった資金を一括で贈与することで贈与者および受贈者の便宜を図ることができます。この点に本制度を活用するメリットがあります。

②金融機関への信託
 特例の適用を受けるためには、金融機関と税制上の要件を満たす教育資金管理契約を締結した上で、信託等を行うことにより金銭等を贈与しなければなりません。

③領収書等の提出
 受贈者は、教育資金として支出した領収書等を、以下の期間内に、信託の受託者である金融機関の営業所等に提出することを求められます。
イ)いわゆる「領収書払い」の場合(贈与を受ける者が、学校等に対して教育資金を支払った後に、当該金額を金融機関から払い出す方式)
 … 領収書等に記載された支払年月日から1年以内
ロ)いわゆる「請求書払い」の場合(贈与を受ける者が、請求書等を金融機関に提供して、金融機関から学校等に対して教育資金を支払う方式)
 … 領収書等に記載された支払年月日の属する年の翌年3月15日まで

 ただし、領収書に記載された金額が1万円以内、かつ、年間24万円以下であれば、必要事項を記載した「明細書」を提出することにより、領収書等の提出に代えることができます。

④終了事由とそれぞれの場合の課税関係
 次の事由に該当することとなった場合、教育資金管理契約は終了することとなります。
 (イ)受贈者が30歳に達した場合(改正にて、一定の場合は例外とされました。後述します)
 (ロ)教育資金管理契約に基づき信託された財産が零となった場合
 (ハ)受贈者が死亡した場合
 なお、(イ)または(ロ)に該当したことにより教育資金管理契約が終了した場合に、非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額があるときには、その金額について贈与されたものとして贈与税が課税されます。
 (ハ)に該当したことにより教育資金管理契約が終了した場合には、上記の残額があるときにも、受贈者に対する贈与税は課税されません。なお、上記の残額は、受贈者の相続財産となります。




3.改正のポイント
(1)23歳以上である受贈者の教育資金の使途の制限
 23歳以上である受贈者の教育資金の使途について、以下のように変更されることとなりました(平成31年7月1日以後に支出される教育資金について適用)。

<改正前>
・学校等の設置者に直接支払われる金銭
 →入学金、授業料、受験料、学用品の購入費、給食費など
・学校等以外の者に直接支払われる金銭
 →塾の授業料、スポーツ等の指導の謝礼、通学定期券代、留学渡航費等

<改正後>
教育資金の使途が以下に限定され、習い事などのための支出は使途に含まれないこととなりました。
・学校等に支払われる費用
・学校等に関連する費用(通学定期券代、留学渡航費など)
・教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講するための費用


(2)受贈者の所得に係る要件
 贈与が行われた年の前年の受贈者の合計所得金額が1,000万円を超えている場合には、本制度を適用することができなくなりました(平成31年4月1日以後に信託される金銭等に適用)。

(3)贈与者死亡時における管理残額の相続財産への加算
 贈与者の相続開始前3年以内に行われた贈与について、以下の「一定の場合」(※1)を除いて、相続開始時における管理残高が相続財産に加算されることとなりました(平成31年4月1日以後に信託される金銭等に適用)。


※1「一定の場合」とは、以下に該当する場合をいいます。
 ・受贈者が23歳未満である場合
 ・受贈者が学校等に在学している場合
 ・受贈者が教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している場合


(4)受贈者が30歳に達した場合の取り扱い
 原則として、受贈者の年齢が30歳に達した場合、教育資金管理契約が終了することとされていましたが、以下の「一定の場合」(※2)には、特例を継続することができることとなりました。その場合には、以下の要件に該当しなくなった年の翌年の12月31日、または、受贈者が40歳に達する日のいずれか早い日に教育資金管理契約が終了することとなります(令和元年7月1日以後に30歳に達する受贈者について適用)。


※2「一定の場合」とは、以下に該当する場合をいいます。
・受贈者が学校等に在学中である場合
・受贈者が教育訓練給付金の対象となる教育訓練を受講している場合


4.おわりに
 教育資金一括贈与は、将来にわたって必要となる教育資金を事前に一括贈与することが可能となり、計画的な相続対策の一助となる制度です。適切に活用することにより、贈与者の毎年の贈与の手間が不要となるとともに、受贈者は教育資金の資金繰りに早期に目途をつけることができるといったメリットを享受できることとなります。
 しかし、信託した資金が教育目的以外に使用されて信託残高が零になってしまった場合など、課税が発生してしまうケースもあるので十分な注意が必要です。






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芦川 洋祐

ひのき共同税務会計事務所/芝オフィス代表 税理士平成13年早稲田大学社会科学部卒。デロイトトーマツ税理士法人、太陽グラントソントン税理士法人を経て現職。国内上場企業及び外資系企業に対する税務申告業務から、連結納税コンサルティング業務、事業再編・M&Aに係る税務精査業務、ストラクチャー検討業務、オーナー企業に対する事業承継支援業務などに従事。著書に「中小・オーナー企業の国際税務」(中央経済社)、「第6版 詳解 連結納税Q&A」(共著・清文社)がある。