4.税務調査の実施まで
相続人から提出された相続税の申告書が適正であるかどうかの判断は、次の3つに区分されます。
・実地調査が必要である事案
・事後的に対応すべき事案
・適正に申告がされている事案
まずは税務署等内部で、調査をする担当者が決まり、その担当者が更に詳しく資料の収集を行います。収集したデータを基に、どの項目を調査すべきかを具体的にピックアップします。実地調査が行われることになった事案は、調査の内容・金額などにより、税務署が調査する事案なのか国税局が調査する事案なのかが分けられます。
国税局が調査を担当することが多い事案は、次のような事案のようです。
・遺産の総額が5億円を超えるような大規模案件
・海外取引が多いなど資料が多く複雑な案件
相続税だけでなく、所得税・法人税など他の税とも関連して調査が必要な案件(一般的には、優良中小企業のオーナー経営者が想定されます。)
要するに超富裕層と考えていただければよいでしょう。
また、実地調査を行う先を次のような基準でランク分けを行っていきます。
・遺産総額が多い事案
・多くの申告漏れが予想される事案
特に、多くの申告漏れが予想される事案は、入念に事前準備が行われます。この事前の準備を、準備調査といいます。この準備調査は、実地調査を前提とした調査で、この準備調査がどれだけ行われるかによって調査の結果が決まってしまうくらいの大事なものです。この準備調査の段階で申告漏れが把握できますので、更に資料や情報収集を行っていきます。
実地調査が必要である事案や事後的に対応すべき事案と判定された場合、税務調査に移行します。まずは、税務署から事前に相続人へ連絡されます。この連絡は、相続人代表者へされることが多いです。税務調査の連絡が直接相続人にされるのではなく、相続税の申告書を作成した税理士に連絡されることがあります。相続税の申告書を作成した税理士が「税務代理権限証書」を提出している場合です。この証書が提出されているときは、まず税務署から税理士に連絡があり、税務調査の日程について打診があります。その後、税理士から相続人へ税務調査がある旨を伝えられ、日程を調整することになります。日程は即答せず、後日回答することでまったく問題ありません。
ちなみに相続税の申告書の提出の際、税理士が作成した書面を添付する制度を活用した場合(書面添付制度といいます)、その書面の内容について、調査へ移行する前に税理士にヒアリングすることが義務付けられています。税理士の回答の結果、相続税の申告書が適正であると判断されれば税務調査は行われません。適正に申告がされている事案と判定されたときは、提出された相続税の申告書が適正なものであるため、これまで収集した資料を整理して終了となります。
5.いよいよ税務調査当日! 税務調査当日の流れ
上記の過程を経て、やっと税務調査の当日です。税務調査は通常、税務職員が2人組でやってきます。午前10時から開始するのが一般的です。税理士の立ち会いのもと、相続人ご自宅のリビングなどに全員が着席します。相続の税務調査などほとんどの人は一生に一回あるかないかの経験で、相続人の方はかなり緊張されます。税務職員からは、最初は「亡くなられた方はどんな方でしたか?」など、雑談から始まるのが通常です。当初の緊張から解放されてしまい、つい話が盛り上がってしまう傾向も多々見られます。実はその雑談から税務職員の調査は始まっているのです。その心境のゆるみを狙って、情報収集をしています。
例えば、
「なくなった人は社交的で多趣味でしたね。」
「なくなった人は、骨董品集めから時計までいろんなことに興味がありましたね。」
「なくなった人は、海外旅行に毎年いっていました。海が好きだったのです。」
等々です。これは、被相続人の資産に目星をつけるための情報収集です。派手好きな方なら時計や車といった物に、質実剛健な方なら貯金をするため預金口座に資産が集中していると傾向が把握できます。「社交的で多趣味」なら、ゴルフもきっと好きで、ゴルフ会員権をたくさん持っているに違いない、幅広い交友関係からは「節税の仕組みや不動産、金融に詳しい」知人がいないかなどを探ります。「骨董品収集」が趣味なら、美術品について、「海外旅行が好き」については、海外に資産が移転しているのでは、(例えば海外の預金口座を持っている)と疑います。つまり、初回の雑談では、饒舌なほど税務署側にヒントを与えることになるのです。雑談では、一方が淡々と会話し、もう一方は無言で座っています。一方は雑談からの聞き役に徹し、もう一方は室内をさりげなく観察しています。絵画など飾っているもの、取引がありそうな銀行や証券会社、保険会社のカレンダー、メモ帳等々まで目を光らせています。1時間ほど雑談を終えると税務調査らしくなってきます。