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COLUMN

2019.10.08税務情報

配偶者居住権の税務

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  • 民法

1. はじめに
 平成30年7月、参議院本会議において、改正民法が可決・成立し、「配偶者短期居住権」および「配偶者居住権」の制度が新設されました。(令和2年4月1日以後に開始する相続について適用)
 「配偶者短期居住権」および「配偶者居住権」は、被相続人が所有していた建物に居住する配偶者の生活を保護することを目的に創設されました。
 従前の相続は、相続人間の公平を重要視した制度設計がなされていました。そのため、例えば、相続財産の大部分が自宅の土地および建物であった場合などにおいて、相続人間での分割が困難となり、結果として残された配偶者の生活が保護されないといった問題が発生することがありました。
 この問題を、建物の「所有権」および「居住権」を分離させることにより、解決しようとしたのが「配偶者短期居住権」および「配偶者居住権」の制度です。
 本稿においては、「配偶者短期居住権」および「配偶者居住権」の制度の概要および税務上の取り扱いについて整理いたします。



2.配偶者短期居住権
(1)制度の概要
 配偶者が、相続開始時に、被相続人が所有する建物(居住建物)に無償で住んでいた場合には、以下に定める期間において、居住建物を無償で使用する権利である「配偶者短期居住権」を取得します。
 ①配偶者が居住建物の遺産分割に関与する場合:
  居住建物の帰属が確定する日までの間(ただし、最低6か月間は保障される)
 ②居住建物が第三者に遺贈された場合、配偶者が相続放棄をした場合:
  居住建物の所有者から消滅請求を受けてから6か月

(2)税務上の評価額
 配偶者短期居住権は、収益を生じず、財産性が認められないため、相続税の課税の対象にはならないとされています。

(3)制度導入のメリット
 現行の民法においては、相続開始時に、相続人が被相続人所有の建物に居住している場合には、原則としては、被相続人および相続人の間で使用貸借契約の成立が推認されます。ただし、被相続人が反対の意思を表示した場合や、被相続人が居住建物を他の者に遺贈した場合などにおいてはこの限りでなく、被相続人の居住が保護されません。
 これに対して、「配偶者短期居住権」が認められる改正民法施行下においては、被相続人の意思にかかわらず、最低6か月は配偶者の居住が保護されることとなります。



3.配偶者居住権
(1)制度の概要
 「配偶者居住権」とは、相続開始時に配偶者が居住していた被相続人所有の建物について、終身または一定期間において、配偶者の使用を認めることを内容とする法定の権利です。

(2)税務上の評価額
 配偶者居住権等の評価額は以下の算式によります。

①配偶者居住権
 建物の時価-建物の時価×(残存耐用年数-居住権の存続年数)/残存耐用年数×居住権の存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率

②配偶者居住権が設定された建物の所有権
 建物の時価-配偶者居住権の価額

③配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利
 土地等の時価-土地等の時価×居住権の存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率

④居住建物の敷地の所有権等
 土地等の時価-敷地の利用に関する権利の価額


 上記の算式に数値を入れると以下のようになります。

【前提】
①居住用財産:相続税評価額 合計1億円:
 建物2,000万円(築4年)、土地8,000万円
②建物及び土地は子が相続し、配偶者が配偶者居住権を取得
③配偶者は相続開始時に75歳、配偶者居住権の存続年数は終身
④その他の前提
 ・建物の耐用年数:22年×1.5=33年
 ・建物の残存耐用年数:33年―経過年数4年=28年
 ・配偶者居住権の存続年数:15年(75歳女性の平均余命年数)
 ・複利現価率:0.642(法定利率3%、15年間)

【配偶者居住権等の計算】
①配偶者居住権の評価
 2,000万円-2,000万円×(28年-15年)/28年×0.642=1,403万円
②居住建物の所有権部分の評価
 2,000万円-1,403万円=597万円
③敷地利用権の評価
 8,000万円-8,000万円×0.642=2,864万円
④土地の所有権部分の評価
 8,000万円-2,864万円=5,136万円

【各人の取得価額】
 配偶者 ① 1,403万円 + ③ 2,864万円 = 4,267万円
  子  ② 597万円 + ④ 5,136万円 = 5,733万円
 ※敷地利用権については小規模宅地の評価減の特例の対象となりますが、本試算においては考慮していません。

(3)制度導入のメリット
 「配偶者居住権」制度が導入されることにより、例えば、遺産分割において居住建物の「居住権」を配偶者に相続させ、「所有権」はその他の相続人に相続させるということが可能となります。
 現行の制度下では、相続財産の構成によっては、配偶者が居住建物の所有権を取得しようとしただけで相続分に達してしまい、その他の財産を取得できなくなってしまうことがありました。しかし、「配偶者居住権」の制度を活用すれば、配偶者は「配偶者居住権」のみを取得すればその居住を確保することができるため、その他の財産を取得することができる余地が生まれます。


4.まとめ、実務上注意すべき点
 「配偶者短期居住権」および「配偶者居住権」が創設されることにより、被相続人が所有していた建物に居住する配偶者の生活が保護されることとなりました。
 なお、その後、配偶者が死亡した場合には、民法の規定により(予定どおり)配偶者居住権が消滅することになります。このとき、居住建物の所有者が使用収益することが可能となったことを利益と捉えた課税は、その必要がないとされています(財務省「令和元年度 税制改正の解説」)。
 つまり、一次相続において配偶者が取得した「配偶者居住権」は、配偶者自身の相続においては相続財産になりません。よって、配偶者居住権を利用することにより居住権相当額を、二次相続の課税資産から除外することができることとなります。
遺産分割を検討する場合においては、配偶者居住権の活用による二次相続における相続税額の減少効果も含めて検討することが必要になります。








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安井 孝徳

ひのき共同税務会計事務所/麹町オフィス代表 税理士平成10年早稲田大学社会科学部卒。デロイトトーマツ税理士法人を経て現職。上場企業及び外資系企業に対する税務申告業務から、公益法人コンサルティング業務、連結納税コンサルティング業務、事業再編・M&Aに係る税務業務、ストラクチャー検討業務、オーナー企業に対する税務業務などに従事。また、外資系企業やIPO準備会社など数社の監査役も兼務している。著書に「税理士のための会社清算の法律会計税務と申告書作成」(共著、清文社)、「Q&A業種別消費税の実務」(共著、中央経済社)がある。