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COLUMN

2017.06.10税務コンサルのポイント

相続税の税務調査 その1

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1.相続税の税務調査は突然やってくる


 相続税の税務調査は突然やってくるのが一般的です。相続税の申告期限(後述)から1~2年後くらい、つまり3回忌を終え、相続税を申告したことなど忘れた頃にやってくるのです。相続税申告を税理士に依頼した場合には、その税理士から「税務署が相続税調査のため2日間、自宅に伺いたいと言っています」というような連絡が突然、あなたのところへやってきます。
 そもそも相続税はどういった税金でしょうか。相続税は、相続等によって取得した財産(被相続人の死亡前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産を含みます。)価額の合計額が基礎控除額を超える場合にその超える部分に対して、課税される税金です。「相続税増税」などマスコミでも騒がれているのは、この基礎控除額が平成27年1月1日以降から3,000万円+600万円×法定相続人の数となり現行の6割に縮小されるからです。もちろん、相続財産の合計額が基礎控除額の範囲内であれば相続税の申告も相続税の納税も必要ありません。しかし、上記の計算の結果、相続税が課税されることになったときは、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に、相続税の申告と相続税の納税が必要となります。なお、申告期限までに相続税の申告をしなかった場合や、実際に取得した財産の額より少ない額で申告をした場合には、本来の税金のほかに加算税や延滞税がかかる場合があります。納税についてですが、相続税は税務署だけではなく、銀行などの金融機関や郵便局の窓口でも払うことができます。金銭で一時に納付することが原則ですが、特例として何年かに分割して納付する延納や相続財産を金銭の代わりに納付する物納の制度もあります。
 さて、先述の基礎控除額の縮小により相続税申告が必要な方は今後増加するものと予想されます。あなたもそのおひとりになるかもしれません。相続税の申告をされた方は下記の相続税の税務調査は他人事ではなくなってくるのです。


2.相続税の税務調査の下準備 前編(税務署の事前情報収集)


 相続税の税務調査が行われるのは相続税の申告件数の30%程度、そのうち申告漏れなどが指摘されるのは80%を超えています。このように指摘事項が多くなる理由の一つとして、相続税の場合、法人税の調査等と異なり税務署側の下準備が周到であることも関係しています。
 税務署の情報収集は生前から既に行われています。例えば、不動産については登記情報などから把握します。所得税の確定申告をされている方で、高額所得者は財産明細の添付を求められます。この明細により、自宅以外の別荘等、主要な財産、高価であると思われるような財産などは事前にチェックされています。
 税務調査の有無は、亡くなる前から大まかに振り分けられています。税務署では、KSKという税務署内部に蓄積された被相続人に関するデータを収集しているシステムがあります。これを基に、相続税の申告が必要かどうかを判断していきます。もちろん、この段階では、税務署では被相続人の預金がいくらあるのかまではわかりません。そのため、市区町村役場から提供された不動産の情報を基に、相続税の申告が必要かどうかを判断しています。ここで、なぜ市区町村からそんな情報が提供されるのでしょうか。
 人が亡くなると、亡くなってから一週間以内に死亡届を市区町村役場に提出しなければなりません。市区町村はこの死亡の届出があったときは、死亡届に記載されている内容を税務署に通知しなければならないことになっています。この際、市区町村役場から税務署へ通知されるのは、死亡があったことだけではなく、固定資産税評価額なども通知されています。この不動産は当然に相続税の対象財産になります。税務署は、市区町村役場から通知される固定資産税評価額を見たときに、不動産だけで相続税の基礎控除を超えていれば、亡くなられた方に相続税がかかることを把握できるのです。
 ここまでで相続税の申告が確実に必要であると判断されたときは、相続人関係者へ相続税の申告書(用紙)を送付することになっています。相続税がかかるか判断がつきかねる場合には「相続税のお尋ね」を送付することになっています。その両方が送付されこともあります。重要なことは、相続税の申告書や相続税のお尋ねが税務署から送付されてこないからといって、相続税の申告が不要というわけではないということです。上述のように、この段階では、税務署は被相続人の財産をすべて把握しているわけではありません。あくまで目星を付けて送付しているにすぎないのです。したがって、本当は相続税がかかる場合でも相続税の申告書(用紙)が送付されないことがあるので注意が必要です。


次回、「2.相続税の税務調査の下準備 前編(税務署の事前情報収集)」の続きからお話します。

伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。