2019年6月28日に「定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱い」に関する法人税基本通達が改正され、前払部分のある保険の取扱いが変更されました。今回は、改正法人税基本通達の目玉となる「定期保険等の保険料」と「短期払のがん保険等」についてご紹介します。
■定期保険等の取扱いについて
法人が役員や従業員を被保険者とした定期保険やがん保険、医療保険等の第三分野保険に加入した場合、その保険料は、税務上費用(損金)として取り扱われてきました。しかし、中には節税が主目的となる保険として国税庁等から問題視されるものもあり、保険期間が長期にわたる定期保険や保険金が逓増する定期保険などは個別通達等により、また第三分野保険については法令解釈通達等により、それぞれ支払った保険料の損金算入時期や資産計上すべき割合が定められ適正化が図られてきました。その後も、個別通達等が規制する範囲に該当しないような保険商品を保険会社がつくり、国税庁等が規制をかけるという状況でありました。今回も全額損金の保険の人気が高まり、そのような節税保険への歯止めをかけるという側面から通達改正となりました。
■定期保険等の保険料の税務上の取扱い
今回の改正では、従来のそれぞれの保険の個別通達が廃止され、新たに「定期保険等の保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合の取扱い等」が新設されました。今回の改正のポイントは、保険商品の種類ごとではなく、最高解約返戻率を基準として支払保険料のうち資産計上すべき割合が示されたことです。具体的な取り扱いは次表の通りとなります。なお、最高解約返戻率50%以下の保険につきましては、裏面Q3をご参照ください。
最高解約返戻率 | 資産計上期間 | 資産計上額(残額を損金算入) |
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① | 50%超70%以下(※) | 保険期間の当初40%相当の期間 | 年間の支払保険料×40% |
② | 70%超85%以下 | 年間の支払保険料×60% |
③ | 85%超 | 保険期間開始日から解約返戻率が最高となる期間の終了日 | 年間の支払保険料×最高解約返戻率×70%(保険期間開始日から10年経過日までの期間は90%) |
※年換算保険料相当額が30万円超の定期保険等保険料のうち資産計上された金額(保険積立金)については、
最高解約返戻率の区分に応じた次表の「取崩期間」にわたって取崩しを行うことにより損金算入されます。
最高解約返戻率 | 取崩期間 |
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① | 50%超70%以下 | 保険期間の75/100相当期間経過後から、保険期間の終了の日まで |
② | 70%超85%以下 |
③ | 85%超 | 解約返戻金が最も高くなった期間経過後から、保険期間の終了の日まで |
■短期払のがん保険等の税務上の取扱い 「短期払のがん保険等」とは、保険期間が終身でありながら、保険料の払込期間が短期の保険商品をいい、これまでは保険料の全額を損金算入できるといったメリットがありました。今回の改正のポイントは、
年間の支払保険料の金額によって取扱いが異なることです。今後は年間の支払保険料が30万円超の「短期払のがん保険等」については、保険料の払込期間にかかわらず、税務上は、保険期間の経過に応じて保険料を損金算入する必要があります。改正前後の主な取扱いは下記の通りとなります。
改正前 | 改正後 |
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年間の支払保険料の多寡にかかわらず支払日の属する事業年度で損金算入 | 年間の支払保険料30万円以下 | 年間の支払保険料30万円超 |
支払日の属する事業年度で損金算入 | 保険期間の経過に応じて損金算入 |
Q&AQ1. 改正通達はどのタイミングで適用されるのでしょうか。また契約変更をした場合にはどうなりますか。A1. ・最高解約返戻率50%超の定期保険等:2019年7月8日以後の契約分から適用
・短期払のがん保険等:2019年10月8日以後の契約分から適用
改正通達は、
発遣日以後の新契約に適用されることになりますので、過去の契約に遡及されることはありません。ただし、既存契約の見直しを行い、契約内容の変更をする場合には、改正後の取扱いとなる可能性がありますので注意をする必要があります。
Q2. 最高解約返戻率とは何でしょうか?A2. 最高解約返戻率とは、その保険の保険期間を通じて解約返戻率が
最も高い割合となる期間におけるその割合をいいます。
Q3. 最高解約返戻率50%以下の定期保険等の保険料の取扱いはどうなるのでしょうか。A3. 「最高解約返戻率50%以下の定期保険等の保険料」については、資産計上の必要はなく、従来通り支払時の損金となります。なお、「保険期間が3年未満の定期保険等」や「最高解約返戻率70%以下、かつ、年換算保険料相当額が30万円以下の定期保険等」の保険料も同様に支払時の損金となります。
最高解約返戻率 | 資産計上期間 | 損金算入額 |
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① | 50%以下 | 資産計上される金額はない | 年間の支払保険料を全額損金算入 |
② | 50%超70%以下(※) |
※年換算保険料相当額が30万円以下の定期保険等Q4. 保険料を年払としている場合には、短期前払費用として支払金額を損金算入することは可能でしょうか。A4.
支払日から1年以内に役務提供を受けるものについて、その支払額に相当する金額を
継続して支払日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、その金額を短期前払費用として支払金額を損金算入することが認められます。
Q5. 今回の改正が今後に与える影響があれば教えていただけますでしょうか。A5. 今回の改正により節税を目的とした保険の加入は少なくなり、今後は生命保険本来の加入の目的、何のために保険に加入するのかを検討する必要があります。ただ、全員加入を前提とした養老保険の損金算入割合50%は維持されていることから、
養老保険と定期保険の組み合わせによる保険加入の注目が高まるものと予想されます。
※本記事は、アクタス税理士法人より掲載許可をいただき、同ホームページにて公開されている記事を転載したものです。
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