不動産所有型法人のスキーム失敗例
現在、前回(2017年6月20日配信分)説明したような不動産管理型法人又は不動産所有型法人なるものが流行しています。上記のスキームで解説したように、個人所有から法人所有へ不動産をシフトするのです。これにより「間違った」資産運用管理は防止できたと錯覚しがちです。というのも後述のように、せっかく法人を設立したのに、運用管理そのものを「間違った」システムにしているところが多いのです。
具体的に、よくある「有効に機能していない法人」とは下記のようなものをいいます。
(例1)「役員報酬をすべて親が持っていっている」 親(資産所有者)が社長で、役員報酬の大部分を得ている状態です。つまり相続人への報酬がないため、相続人への所得の分散ができていないことになります。これでは、生前の相続人への所得分散効果が全くできていないことになります。
(例2)「法人にキャッシュを蓄財しすぎている」 法人で高い法人税を負担して、株価も高くなっている。法人税と所得税の税率差による節税をしすぎてしまった悪例です。所得税の最高税率(55%)よりも法人税の実効税率(約38%、中小企業の場合はもっと低くなります)のほうがはるかに安いため、法人で所得を出し続けているというケースです。
しかし、法人で高い法人税を負担しているということは所得が十分に出ている状態ということです。所得水準が高いと、会社の利益水準が高く、また自己資本も蓄積された状態になるため株価は高くなります。既に法人株主が相続人であれば問題ありませんが、もし法人株主が親のままでは、親の相続財産になります。また、相続人に生前贈与するにしても高額な贈与税が発生します。
(例3)「株式をすべて資産所有者が持っている」 資産経営の委譲は親の目の黒いうちに実行しなければなりません。ご自身はまだまだ現役と思っていても高齢になればなるほど判断能力も鈍ってきます。その前に何とかすべきですが、このまま親が株主のままの状態である法人が多く見受けられるということです。
株式はすべて親が有しており、相続人に贈与していないというものです。相続発生時にはこの株式はすべて相続財産になりますから、後継者に資産移転できていないわけです。
法人化する場合に悩ましいのは株主をだれにするかです。そこで株主が親になるというケースがあるのです。これは子に財産があまりなく、さらに法人に対して不動産購入のための銀行からの融資が望めない場合などに、借入をせず、賃貸物件を法人に現物出資して親が法人を設立してしまったパターンに多く見受けられます。
法人の株式は親が所有したままですから、このまま相続を迎えると、親の相続財産になってしまい、生前贈与になっていません。そこで、自社株対策を行い、自社株の相続税評価額が低くなったタイミングで子に贈与又は譲渡して自社株を承継していくという作業が必要になります。これは設立後の継続的なモニタリングが必要なところになりますから、それを怠たってしまい、「役に立っていない法人」が生成されていまっているということになります。自社株の評価下げについての検討や自社株承継のタイミングについては引き続き検討しなければならない事項なので厄介です。
法人の場合には、社長交代という事業承継が必要です。法人の役割は所得の分散だけではありません。事業の承継の役割も果たすのです。そして、資産経営の早期承継こそが本当の相続対策なのです。
(例4)「会社の資金繰りが悪く、貸付金が増大に」 そもそも法人の運営スキームが間違っている例です。賃料収入の設定や、管理料の設定を誤っているケースです。この場合、会社の資金繰りが悪いので、資産所有者(親)からの貸付金が莫大なものになっています。非常によくあるケースが役員報酬が未払計上されているケースなどです。この場合、相続発生時にはこの貸付金や未払金はすべて親の相続財産になりますから、相続税が多額になってしまいます。
これは、当初の法人生成スキームの中で賃貸収入、管理料の設定、及び役員報酬の設定についてシミュレーションをし、その後継続的にモニタリングして、役員報酬額を調整することで回避できるはずです。ところがこれも上記と同様に、その後のモニタリングをしてないという怠慢から生じている問題なのです。貸付金、未払金が多く発生するのであれば、法人スキームの見直しと同時に、相続時精算課税等の制度を利用し、子にアパートを贈与すべきです。
次回、例5からお話します。