前回のコラム(第7回『M&Aにおける価値(バリュー)と価格(プライス)という考え方』)では、M&Aにおいて、「価値(バリュー)」と「価格(プライス)」は必ずしも同様の意味をなさない話をしてきました。また、M&Aで出てくる価値としては「企業価値」と「事業価値」と「株式価値」が使い分けられていることを解説してきました。
今回のコラムでは、企業の価値評価の手法についてみていきたいと思います。
企業価値評価(バリュエーション)のアプローチ
バリュエーションの手法には、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチといった3つのアプローチがあります。
インカム・アプローチは評価対象会社から期待される利益やキャッシュフローに着目し企業価値を評価する手法です。
インカム・アプローチの代表的な手法としてはDCF(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー)法や、残余利益法、配当還元法といった方法があります。
マーケット・アプローチは上場している同業他社や類似取引事例など、類似する会社、事業、取引事例等と比較することによって相対的に価値を評価する手法です。
マーケット・アプローチの代表的な手法としては市場株価法、類似会社比準法、類似取引法といった方法があります。
ネットアセット・アプローチは、株式の評価手法として、主に評価対象会社の貸借対照表上の純資産に着目して評価する手法です。
ネットアセット・アプローチの代表的な手法としては簿価純資産法、修正簿価純資産法といった方法があります。
各アプローチの特徴
次に各アプローチの特徴についてみていきたいと思います。
インカム・アプローチは、評価対象会社から将来生み出される利益等に着目し評価を行うため、対象会社への投資の結果として対象会社から生み出される将来の収益獲得能力を価値として反映させやすく、また評価対象会社の独自の将来のキャッシュフロー等をもとに評価することから評価対象会社が有する資産等の個別性や、将来成長性などの固有の事情を反映させやすい評価手法であるといわれています。
マーケット・アプローチは第三者間や市場で取引されている株式等の価値に着目し、相対的に評価を行うため、市場での取引環境の反映や、一定の客観性には優れているといわれています。
ネットアセット・アプローチは、貸借対照表における純資産に着目して評価を行うため、適切な決算がなされ、資産や負債の内容が把握できる状態であれば、客観性に優れていることが多いといわれています。また、貸借対照表の純資産をもとに評価するため評価のロジックが、比較的わかりやすく理解されやすいという特徴もあります。
各アプローチの一般的な特徴としては下表のようになります。
【三つの評価アプローチの一般的な特徴】
項 目 | インカム | マーケット | ネットアセット |
---|---|---|---|
客観性 | △ | ◎ | ◎ |
市場での取引環境の反映 | ○ | ◎ | △ |
将来の収益獲得能力の反映 | ◎ | ○ | △ |
固有の性質の反映 | ◎ | △ | ○ |
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税理士/公認会計士
税理士法人G&Sソリューションズ 代表社員。
株式会社G&Sソリューションズ 代表取締役。2005年中央大学卒。中央青山監査法人及び太陽有限責任監査法人にてIPO業務やM&A業務に従事し、2013年に独立。税理士法人G&Sソリューションズ、株式会社G&Sソリューションズを設立し代表社員、代表取締役に就任。業務範囲を限定することなく、M&Aに関連する幅広い業務をクライアントに提供し、年間50件を超えるM&Aに関連した業務の提供や相談を受けている。また、会計事務所との業務提携を進めることで、会計事務所が行うM&A業務等の支援を行っている。
著書に「40代オーナー社長のための経営のバトンリレー」(幻冬舎メディアコンサルティング)「M&A組織再編 ストラクチャー別会計・税務のポイント」太陽有限責任監査法人編:共著(税務経理協会)、「株式上場準備の実務」太陽有限責任監査法人編:共著(中央経済社)がある。