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COLUMN

2017.06.20税務コンサルのポイント

典型的な相続対策~賃貸不動産の取得と法人化~ その2

  • 資産税の落とし穴
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  • 不動産

法人化した場合の「管理委託方式」と「転貸借方式」


資産管理型法人 ・・・ 経営を委譲するために法人を介在させる
 ⇒資産経営をこの法人を使って後継者が行う
 ⇒所得分散の効果は大きくないが、あまり大きくない資産経営者でも可能

 従来、非常に流行した方法です。しかし、管理会社の実態がないことから税務署からかなりの指摘を受け、現在では徐々に減少してきています。とはいえ、資産スケールの小さい不動産所有者であれば、まだ活用法はあります。この場合のスキームは従来は下記の2つが代表的でした。

「管理委託方式」

土地や建物の名義は個人のものとし、家賃の集金や物件の維持管理などは不動産管理会社に任せる方法。



「転貸借方式」

オーナー個人が所有する賃貸不動産を法人へ転貸借する方法。
この場合、不動産管理会社が賃貸不動産を一括で借り上げることになります。



 上記の方法では税務調査において、管理会社の商務の実態があるかどうか必ずチェックされることから、それほど多額な管理報酬は得られません(せいぜい10%程度といわれます)。したがって、これらの方法は最近は流行っていません。


不動産所有型法人スキーム


 法人化した場合のスキームで最近の主流はこの方法となります。

資産保有型法人 ・・・ 法人に収益物件の所有権を移転する
 ⇒資産経営をこの法人を使って後継者が行う
 ⇒使い方によっては所得分散・節税の効果は絶大

 現在の主流の方法です。資産スケールの比較的大きな不動産所有者が利用している方法です。法人化して株主が子であるケースと株主が親であるケースの2パターンがあります。
 相続対策を資産経営の観点で実行するという考え方からすると、これら不動産法人活用スキームはその真骨頂といえるものでしょう。なにしろ、本当に法人を設立し、事業を行うのですから経営そのものなのです。そして経営が順調にいけばいくほど資産運用対策・資産管理対策も兼ねるという、まさに資産経営そのものです。
 地主の方はもともとも個人で土地を所有していますから、その土地に新たに法人名義で建物を建築するか、既に所有している法人に譲渡又は現物出資する方法です。
 この方法により建物を法人所有することによって、賃貸不動産という資産を株式に転換し、更には類似業種比準価額を適用することにより相続税評価額を引き下げることが可能となります。
 ではここで効果をおさらいしておきます。

●個人で資産を保有する場合よりも、法人化することにより資金繰りが良くなること。つまりキャッシュフローが改善されること。
これは、法人という「箱」を活用することにより、所得を親族へ分散することや、日常的にさまざまな経費の損金算入が可能となるからです。


●個人で資産を所有していた場合よりも資産の相続税評価額を下げるチャンスが増加することです。つまりストック(資産の評価額)における効率化といえます。法人の評価額、つまり株式評価額を操作しながら、その実体としては、個人の一散にかかわる相続税や贈与税の節税をすることができます。



 もちろんこの方法にもデメリットは存在します。まず決算書・申告書作成義務です。税理士に依頼すればそれなりの金額が必要になってくるでしょう。また税務調査が入る可能性も個人のときより格段に可能性は高くなります。
 留意すべき点は下記の通りです。

○不動産所有型法人スキームを採用する場合は、基本的に土地は法人に移動させず、建物のみを移動させます。土地の譲渡に伴って税負担が生じるに加えて、投資が重くなることによって利回りが下がり、銀行から融資を受けることが難しくなるからです。


○法人での買取資金は未払金経常して分割返済していくことにします。銀行からの融資でも構いません。この場合は、個人の土地を担保提供することになります。


○個人から法人への建物の譲渡価額は同族関係者間取引であることから、適正な時価評価額を用いることになります。固定資産税評価額、減価償却後の帳簿価額、不動産鑑定評価額等を用いることになります。この場合、税務上問題とならない最低の金額は帳簿価額)未償却残高)になります(法人税法基本通達9-1-19)。


○上記の売買の際には登録免許税(建物の固定資産税評価額の2%)、不動産取得税(建物の固定資産税評価額の3%)、消費税(取引価額の8%、仕入税額控除は別途検討)などのコストが生じます。


○個人法人間で土地の賃貸借契約を締結し、通常の地代を支払い、土地の無償返還に関する届出書を提出します。




不動産所有型法人スキームの留意点


◆建物を法人へ移す場合、多額の繰越欠損金を抱える既存の法人がある場合には、無償返還の届出書を提出せず、あえて税務上の借地権を発生させる方法も効果的です。この場合、個人においては、土地の相続税評価額は、借家権割合を控除した評価額になりますし、法人においては、借地権相当額の受贈益と繰越欠損金を相殺することに加えて、会計上も貸借対照表における財政状態を健全化できます。与信に有利に働きます。


◆一般的に株式は遺産分割しやすいと言われますが、株主数が仮に増加してしまうと、株主代表訴訟など嫌がらせリスクを低減させるためにだれか1人に集約させておきたいところです。そうしないと遺産分割で争いになる可能性は高まります。


◆未上場会社の相続税評価額と時価とは全く異なる方法で算定します。相続税評価額を基準にした遺産分割協議が成立しなかった場合、今度は時価を基準に裁判所で争うことになります。このようなケースでは、何回もシミュレーションを繰り返して綿密な計画を準備しておかないと遺言書など意味がありません。すべての相続対策が相続人たった1人の遺留分減殺請求ですべて終了してしまうわけです。


◆個人資産管理目的の法人は未上場株式であり、換金性は全くありません。最終的に清算しなければならないということも多いのです。


伊藤 俊一

税理士
伊藤俊一税理士事務所 代表税理士。
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。税理士試験5科目合格。
一橋大学大学院修士。都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。