賃貸不動産を取得することは以前、『富裕層コンサル プロフェッショナルへの道』の「金融資産家系の節税対策」で述べた効果と全く同様です。
しかし留意すべき点はいくつかあります。
借金だけに依存している相続対策は効果的でない
金融機関やハウスメーカーは借金することが相続対策であると未だに声高に言い続けています。まず、この説明自体に誤りがあります。借金をすることにより相続税がかかる財産額が減少するのではなく、建物を賃貸物件にすることで相続税評価額が下がるのです。ですから、借金などしなくても手元資金で賃貸物件を建築することが一番良いわけです。また、仮に借金の債務控除効果を単純に利用したいという考え方にも否定的です。
借金残高が残っているうちに亡くならないと、債務控除による相続対策にはなりません。
また、近年はやりのサブリースについても注意が必要です。建物の経年劣化、家賃の年々の減少といった時代環境で、果たして10年後、20年後も現状の家賃は保証されると言い切れるのでしょうか。サブリースとは賃貸住宅やビルのオーナーから1棟又は特定の部屋を賃借して、その該当住戸やフロアを個別に別のテナントに転貸(サブリース)する方式をいいます。
オーナーにとっては入居率にかかわらず、一定の賃料が保証され、管理運営の手間も少ないわけです。転貸を目的にオーナーから一括で借上げする契約を「マスターリース」といいます。それを含めて広義の「サブリース」ということもあります。
サブリースの手数料、すなわち査定賃料と保証賃料の差額は10%から20%が相場です。マスターリースは10~30年の長期契約でも、保証賃料の見直しを2年サイクルで行うなど、オーナーに不利になるケースもたびたびあり、契約内容ごとにオーナーリスクは異なります。
理想的な相続対策は、被相続人が長生きすればするほど効果が出る対策です。このように考えると後述の不動産管理型法人・不動産所有型法人による所得の分散や、相続時精算課税制度の利用による収益物件の贈与など、前向きな対策が重要になってくるのです。
まずは不動産管理型法人の概要です。賃貸アパートやマンションを所有しているオーナーが、この賃貸物件を管理するための法人を設立します。オーナーは管理をしてもらう名目で管理料を法人に支払います。実際に法人にそのような業務の実態はなく、そういう体裁をとっているにすぎません。これでその会社の賃貸収入の大半を入れるだけで管理料は経費として認められ、個人の所得から差し引くことができます。結果、オーナー自身の不動産所得の軽減効果があります。法人へ移動したお金は、オーナーの相続人をその法人の役員にしてしまえば、役員報酬として所得分散が可能となります。
次に不動産所有型法人の概要です。まず上記と同様法人を設立します。そして親の所有する賃貸物件をその法人が買取をします。親の土地の上に法人名義で賃貸物件を建築する場合もあります。こうした結果、賃貸物件の家賃収入は法人に入ります。法人の役員を相続人にすることで、相続人は法人から役員報酬を受け取ることになります。これも所得の分散効果が見込まれる一例です。
不動産賃貸業の効果について、最適な相続対策という観点から見直してみます。
法人化によって贈与税の負担を軽減させること
よくある先述の「借金してアパート」によって建築した賃貸不動産を生前贈与した場合、担保となる不動産に借入金がついてきますから、負担付贈与として評価されることになります。負担付贈与とは、第三者などに対して借入金・預かり保証金など債務を引き継ぐことを条件として、資産を贈与することをいいます。この場合、贈与対象の資産の評価額からマイナス分を差し引いた正味の財産に対して贈与税がかかります。この「資産の評価額」とは相続税評価額ではなく通常の取引価額です。ですから、通常この手法では贈与税が課税されることになります。
しかし不動産所有会社を設立し、その法人が借入金によって資金調達を行うとともに、不動産も法人所有とし、その株式を生前贈与する方法もあります。
この場合、不動産所有会社の株式を純資産価額で評価する場合、保有する不動産には相続税評価(貸家建付地、貸家の評価減適用可能)が適用されるため、不動産の通常の取引価額より大きく下回る評価額によって株式を生前贈与することが可能となります。